• バッタの養殖とペット用生体飼料としての総合研究報告

    2025年12月15日X投稿より

    日本ではまだ馴染み深いバッタ類の養殖に関してペットの生き餌として活用する視点から、特に一部のバッタに見られる相変異による毒虫化のメカニズムにに触れながらまとめています。

    目だった過去の蝗害がないために意識と知識が乏しいうえに、バッタの食文化が無いことで養殖技術が皆無と言える日本で爬虫類愛好家などによる小規模な過密繁殖は「青酸毒虫製造」や「農業分野へのマイナスの経済的波及効果や環境負荷増加」などの潜在的なリスクを抱えることになりかねません。

    群生相化による体色変化は警戒色として機能し捕食者(みなさんのペット)のストレス反応を増すことになり、最終的に青酸を体内で生成することで捕食者に命をかけた最大級の攻撃を準備させることになります。

    また、幼虫期における群生層移行は、一般的に不可逆的であると考えられています。

    これは、幼虫が脱皮や生理学的変化を通じて徐々に形態を固めていくためです。

    成虫へと発育を完了すればその形態と機能は安定し元に戻ることはありません。

    屋外に逃げることがあればコロニーを形成し、増殖を繰り返し人為的な蝗害の原因となるかもしれません。

    この報告書は養殖技術が確立している中国の資料をもとに作成していますので部分的に補足を追加しています。

    バッタの養殖とペット用生体飼料としての総合研究報告 

    一、報告の序論 

    バッタは従来の農業害虫でしたが、その高タンパク質、低脂肪の栄養特性が発見されるにつれて、質の高い生体飼料および新しい養殖品種へと徐々に転換してきました 。特に、爬虫類、鳥類、観賞魚などのペット飼育分野で広く応用されています 。しかし、バッタには密度依存性の集団毒性という特殊な生物学的特性があり、養殖の安全性や飼料利用に多くの課題をもたらしています 。本報告は、多角的な研究に基づき、バッタの生物学的特性、人工養殖技術、ペット飼料への適合プラン、法規制・監督システム、および産業的価値を体系的に整理し、業界関係者とペット飼育者に包括的な参考情報を提供します 。

    二、バッタの核となる生物学的特性 

    2.1 孤独相 – 群生相の表現型可塑性(非遺伝的変異) 

    バッタの表現型変化は、典型的な密度依存性の表現型可塑性であり、遺伝物質の変化はなく、環境によって駆動される適応的な調整に過ぎません 。具体的な違いは以下の通りです。

    性状の側面孤独相バッタ群生相バッタ
    体色特徴緑色 / 薄褐色、環境保護色を呈し、隠蔽に適している黒褐色 / 黄黒色の警戒斑紋、「集団で有毒である」信号を天敵に伝える
    形態構造翅が短く、後足の跳躍能力が強い、頭幅/体長比の値が低い翅が長く翅展が大きい、飛翔筋が発達している、頭幅/体長比の値が高い、後足の跳躍能力が減弱している
    行動様式独居、警戒心が強い、驚くと単独の個体が跳躍し逃逸する、群集する傾向がない強い群集性、触角の接触や情報素(フェロモン)を通じて同期行動を実現する、大規模な集団での食害が摂食方式
    生理防御防御性毒素を持たない、代謝は迅速な繁殖が核となるCYP305M2 遺伝子を活性化しフェニルアセトニトリルを合成、攻撃を受けると劇毒のシアン化水素に変換可能、同時にエネルギー代謝率が向上し脂肪備蓄が増加して長距離飛翔を支える

    2.2 群生相表現型のトリガーメカニズム

    ・核となるトリガー信号:若虫(幼虫)段階での個体間の後足脛節の頻繁な機械的接触が最優先のトリガー条件です 。この部位の受容体に継続的な刺激を与えるだけで、孤独相から群生相への相変化を誘発できます。

    ・補助的な調整信号:群生相バッタが放出する特異的なフェロモン(4-ビニルアニソール,4VA)は、素早く拡散し、周囲の個体を同期的に群生相化させることができます。高密度環境下での視覚(同種の集団に対する視覚刺激)、嗅覚(集団の臭い)の協調信号が、さらに群生相表現型を強固にします 。なお、若虫段階での転換は不可逆的です。

    三、バッタ人工養殖技術システム

    3.1 基礎養殖環境の調整

    ・温湿度要件:若虫期は適温25℃~28℃、相対湿度 60%~70%。成虫期は温度を25℃~32℃に上げることが可能。15℃未満では活動が著しく減退し、35℃を超えると冷却措置を講じる必要があります 。卵の孵化期は湿度を60%~80%に維持する必要があります。育成期の湿度は 85%~92%で、雨による直接の洗い流しを厳しく避ける必要があります。

    ・光照と空間:脱皮と性腺の発達を促進するため、毎日≧12時間の光照を確保する必要があります。養殖容器には多層の止まり木を設置し、立体的な空間分層を実現することで、単位面積あたりの虫の密度を希釈し、集団群集の信号を弱める必要があります。

    3.2 飼料配合と繁殖技術

    ・高効率飼料プラン:核となる配合は、トウモロコシの茎50% + 小麦の茎 30% + 麦ぬか 15% + 大豆かす5%です。複合酵素製剤を添加することで、消化率を60%から75%に向上させることができます。0.3%のメチオニンを補充することで性成熟を加速させることができ、1.5:1のカルシウム・リン比を維持することで脱皮成功率を高めることができます。飼料原料には、農業の茎、メキシコトウモロコシ草、ライグラスなどを選択でき、廃棄物の循環利用を実現し、養殖コストを削減できます。

    ・繁殖の鍵となる技術:卵の越冬には、生存率を保証するために精密な温度制御(-29℃~から 14℃)が必要です。温湿度二重制御により、孵化周期を15日から10日に短縮でき、年間養殖サイクル数を4サイクルから5サイクルに増加できます。種バッタは一度導入すれば数年間の自家繁殖・自家育成が可能となり、長期養殖コストを大幅に削減できます。

    (注.-29℃と低温であるのは地理的要因など多様なニーズがあるためシベリアバッタ(Gomphocerus sibiricus)など耐寒性種も求められます。14℃は多くのバッタの休眠覚醒の臨界温度とされるため温度制御に幅が生まれます)

    3.3 群生相毒性の核となる予防・制御措置 

    3.3.1 発生源の予防(核となる手段) 

    ・密度の精密な管理:1齢り200匹を超えないようにします。箱や区画を分けて齢期ごとに飼育し、個体間の機械的接触が群生相化を誘発するのを防ぎます。

    ・指向的な系統選抜:多世代にわたり孤独相表現型が安定している系統を選抜し、緑色/薄褐色の体色、群集行動がない、CYP305M2 遺伝子の低発現の個体を残します。これにより、遺伝的レベルで群生相化と毒素生成の確率を下げるとともに、群生相傾向の高い系統の混入を厳しく禁止します。

    ・環境信号の干渉:養殖環境には、単一で柔らかな緑色/褐色の背景を採用し、強光と単色エリアの視覚同期刺激を弱めます。敷き材を定期的に交換し、糞便を清掃して換気を強化し、群生フェロモンの蓄積を減らします。温湿度を安定に維持し、極端な環境ストレスが集団群集を誘発するのを避けます。

    3.3.2 プロセスの監視と偶発的な処理

    ・常態的な監視:毎日、体色と行動を巡回チェックし、個体の背板が黒変したり、黄黒色の斑紋が出たり、小規模な集団を形成しているのを発見した場合は、直ちに隔離・淘汰します。定期的に翅長/体長比を測定し、比率の異常な上昇が見られた場合は、速やかに密度を下げる必要があります。大規模養殖場では、PCR技術を通じて CYP305M2 遺伝子の発現量をモニタリングし、毒素合成のリスクを予測することができます。

    ・偶発的な毒素の消解:既に群生相化した個体に対しては、まず清潔な環境で高繊維の青草を 24時間~28時間仮飼育し、腸内を浄化する必要があります。翅、足、背板などの毒素が沈着している部位を除去し、生理食塩水で虫体を洗浄します。60℃/10 分間の高温または**-18℃ の冷凍**によって毒素の活性を破壊することができ、同時に処理時間を制御して栄養を保持します。

    四、バッタのペット用生体飼料としての応用分析

    4.1 核となる栄養上の利点

    バッタは典型的な高タンパク質、中低脂肪の生体飼料です。生重量状態でタンパク質含有量は 18%~22%(乾燥重量で60%~65%)、脂肪含有量は3%~6%(乾燥重量で 15%~20%)です。アミノ酸組成は包括的であり、カルシウム・リン比は1:5~1:7に達し、ミールワームなどの餌料よりもはるかに優れています。また、ビタミン B 群、ビタミン A、亜鉛、鉄などのミネラルが豊富に含まれており、ほとんどのペットの成長発達のニーズを満たすことができます 。

    4.2 群生相と孤独相の飼料適合性対照表

    比較の側面群生相バッタ孤独相バッタ
    基本的性状黒褐色 / 黄黒色の斑紋、ベンズアセトニトリル(シアン化水素に変換可能)毒素を含む、外骨格が硬く、筋肉繊維が粗い緑色 / 薄褐色、防御性毒素を持たない、外骨格が柔らかく、肉質が繊細
    核となる栄養(乾燥重量)タンパク質 62%~65%、脂肪 18%~20%、Ca/P 比 1:6~1:7、脂肪備蓄が高いタンパク質 58%~60%、脂肪 15%~17%、Ca/P 比 1:5~1:7、栄養バランスが取れており吸収しやすい
    毒性リスク低〜中度の毒素、小型ペットの肝臓・腎臓に損傷リスクがある無毒素、安全性が高い
    鳥類への適合成体の猛禽類にのみ適合、翅と足を除去し、毎月≦1 回少量を給餌する必要がある全齢段の鳥類に適合:雛鳥 / 鳴禽類には 1齢~2 齢の若虫を給餌;成鳥の雑食鳥には主食として利用可能(日糧の 40%~50% を占める)
    亀類への適合成体の大型半水棲ガメにのみ適合、細かく刻んで給餌し、単回≤ 当日摂食量の 10%、リクガメ / 幼亀への給餌は厳禁大多数の亀類に適合:幼亀 / リクガメには翅のない若虫を給餌し、カルシウム粉末を組み合わせる;半水棲ガメ / 水棲ガメには核となる餌料として利用可能(日糧の 30%~40% を占める)
    観賞魚への適合給餌は厳禁、毒素が肝臓・腎臓の損傷を引き起こしやすく、外骨格が鰓を詰まらせやすい中大型の観賞魚に適合、翅と足を除去して給餌、稚魚には刻んだ1齢の若虫を与えることができ、週 2~3 回
    爬虫類 / 節足動物ペットへの適合成体の大型トカゲ / キングスネークに適合、翅と足を除去し、単回≤ 頭部の幅、毎月 ≤ 2 回;小型の節足動物ペットへの給餌は禁止大多数の爬虫類に適合:幼体ヤモリ / トカゲには 1 齢若虫を給餌;成体のフトアゴヒゲトカゲ / コーンスネークには通常の補充食として利用可能(日糧の 20%~30% を占める);大型のタランチュラ / サソリには 10 日ごとに 1 齢~2 齢若虫を1回給餌可能 

    4.3 一般的な給餌時の注意点

    群生相バッタは、給餌前に生理食塩水で体表を洗浄し、残留したフェロモンと微量の毒素を除去する必要があります。孤独相バッタは、給餌の24時間~48時間前に「腸内ローディング」(高カルシウムの青草または専用飼料を与える)を行い、カルシウム・リン比を最適化することができます 。長期にわたる単一の給餌は不可であり、栄養バランスを確保するためにデュビアローチ、アメリカミズアブの幼虫などの餌料と組み合わせる必要があります 。

    五、関連法規制・政策と業界標準

    5.1 国内の法規制の枠組み

    現在、バッタの養殖を対象とした専門的な法規制はありません 。核となるのは以下の汎用的な法規制に従うことです。

    ・《中華人民共和国畜牧法》(2023 年改正):バッタの養殖に基礎的な法的根拠を提供します。

    ・《飼料と飼料添加剤管理条例》:ペット飼料の生産には許可が必要であることを明確にし、毒性のある有害物質を含む飼料の生産を禁止しています。

    ・《食品安全法》:生物毒素が基準を超過した製品は没収され、貨物価格が1 万元以上の場合は 10~20 倍の罰金が科されると規定しています。

    ・《ペット飼料管理弁法》:ペット飼料に原材料の構成、適用されるペットの種類を明記することを要求し、《飼料原料目録》外の物質の使用を禁止しています。

    5.2 業界標準の参考

    ・《昆虫蛋白飼料原料》(NY/T 3189-2017):バッタなどの昆虫蛋白の品質指標を明確にしています 。

    ・《飼料衛生標準》(GB 13078-2017):バッタ飼料中のシアン化物などの有毒物質の制限値の参考を提供しています。

    ・(待発行)《食品安全国家標準 乾燥昆虫》:乾燥バッタ製品専用の安全基準が設定される予定です 。

    5.3 国際的な監督の参考

    ・欧州連合(EU):2021 年から特定の昆虫蛋白の動物飼料への使用を許可し、《General Food Law》、《Hygiene Package》を通じて生産の安全性を規範化しています。

    ・シンガポール:昆虫飼料生産企業は SFA の許可を得る必要があり、製品は監督された場所で養殖されたものでなければならず、野外での採集を厳禁しています。

    ・米国:連邦法規により、生態系への侵入リスクを防ぐため、バッタの州をまたいだ輸送を禁止しています 。

    5.4 業界の監督動向 

    《全国昆虫産業発展計画 (2023-2030)》では、バッタが戦略的特色養殖品種としてリストアップされており、将来的にバッタの養殖を対象とした専門の安全基準と監督細則が順次導入される予定です。監督の重点は「最終製品」から「全プロセス生産管理」へと移行していくでしょう。

    六、産業的価値と将来の展望 

    6.1 経済的利益の分析

    養殖規模:2023年の全国のバッタ養殖協同組合は 8,150 社に達し、規模化された基地は 1,800 ヶ所を超えています。山東省、河南省、河北省の3省が生産量の65%を占めています 。75㎡の養殖小屋 1 棟あたり、1 サイクルで70kgを生産でき、年間 3~4 サイクルを養殖し、生体の単価は80元~120元/ kgでで、小屋 1 棟あたりの年間生産額は1.7万元~3.4万元に達します。

    ・コスト優位性:飼料コストは65元/トンまで下げることが可能。種バッタは一度導入すれば数年間繁殖可能 。一人あたりの 1 日の飼育数は1~5万匹が可能で、家族の副業や規模化養殖に適しています。

    6.2 多分野への応用拡大 

    ・ペット飼料分野:鳥類、爬虫類、観賞魚の質の高い生体飼料として、ペットの捕食本能を効果的に刺激し、成長に必要なタンパク質を補給できます。

    ・畜産・水産分野:バッタ粉のタンパク質含有量は74.88%に達し、一部の魚粉や大豆かすの代替として利用でき、水産養殖に使用することで動物の増体を9.6%向上させ、飼料効率(料肉比)を0.18低下させることができます。

    ・食品・医薬分野:検疫と解毒処理を経たバッタは特色食品として加工でき、そのポリペプチド抽出物は抗酸化作用や免疫力向上を目的とした健康食品として開発できます。

    6.3 将来の研究方向 

    ・ゲノム編集育種:CYP305M2 などの毒素生成関連遺伝子を標的として制御し、無毒で高生産性の専用系統を育成します。

    ・スマート養殖:IoT(モノのインターネット)環境監視システムを構築し、AI 視覚認識と組み合わせてバッタの密度と体色の変化をリアルタイムで監視し、群生相化リスクの自動警報を実現します。

    ・全産業チェーン開発:バッタのタンパク質粉末、キチン質などの深加工製品を拡張し、「養殖 – 加工 – 販売」の一体化モデルを構築して、産業の付加価値を高めます。

    七、報告の結論

    ・バッタは質の高い生体飼料としての核となる栄養上の利点を持っていますが、群生相化による毒素生成特性が養殖と応用における核となるリスクです。密度管理、系統選抜、環境干渉を通じて発生源からの予防を行う必要があります。

    ・孤独相バッタはほとんどのペットに適合しますが、群生相バッタは成体の大型で毒性に耐性のあるペットにのみ少量給餌が可能であり、事前処理が必須です。

    ・現行の法規制は汎用的な枠組みが中心ですが、業界は専門化・精緻化された監督へと徐々に転換しています 。

    ・バッタの養殖は経済的利益と生態学的価値を兼ね備えており、将来的に技術の向上に伴い、ペット飼料およびタンパク質産業の核となる品種の一つとなることが期待されます 。

    ・養殖業者には、孤独相系統の育成を優先し、群生相化リスクの監視を強化することを推奨します。ペット飼育者は、正規の養殖場から孤独相バッタを選択し、適合プランに厳密に従って給餌を行い、ペットの食事の安全を確保する必要があります 

  • ツボカビとの共進化から捉える両生類ホロビオントの絆とそれを切り裂く人為的パンゲア

    X投稿より

    ツボカビとは

    ツボカビ(ツボカビ門 Chytridiomycota)は、地球上で最も古い真菌系統のグループの一つです。

    形態的特徴は遊走子(鞭毛を持つ胞子)を形成することで、水環境と極めて相性がよく起源が水圏にあったことを示す証拠であると言わています。

    両生類に関わる主な種としては以下の二種類があげられます。

    Bd(Batrachochytrium dendrobatidis)

    ・世界的な両生類大量死の原因(無尾目、有尾目、無足目のすべてに感染します)

    ・正確な起源は未解明(遺伝的多様性が最も高い東アジア起源説が有力)

    ・角質層に寄生(主に電解質異常による心停止)

    Bsal(Batrachochytrium salamandrivorans)

    ・2013年に初めて特定、有尾類(イモリ・サンショウウオ)に特異的に感染

    ・約6600万年前以降にBd系統から分岐したと分子時計解析で推定

    ・表皮全体を侵食(潰瘍化・皮膚崩壊)


    ツボカビの起源

    菌類と動物は「オピストコンタ」と呼ばれるグループに属し、共通の単細胞性の祖先(アモルフェアの祖先)から進化しました。

    菌類全体が動物との共通祖先から分岐したのは約15億年前と推定されており、ツボカビ門としての起源も数億年以上前まで遡ると考えられています。

    形態的に「ツボカビ」と確認できる最古の化石記録は、先カンブリア時代末期(約5億〜6億年前)のベンド紀(エディアカラ紀)の地層から見つかっています。

    Bdの現生系統としての分岐時期は不明ですが、数万年前とする推定もあります。

    しかし、両生類とツボカビの生態学的接点は遥か4億年前に遡ることができると考えています。

    藻類が陸上に進出する際、まだ根を持たなかった彼らにとって、菌類は「根の代替器官」として窒素 ・リン・ミネラルなどを供給する不可欠なパートナーでした。

    ツボカビに近いグループや、グロムス門(Glomeromycota)やケカビ門(Mucoromycota)の菌類が植物の細胞内に侵入(共生)し栄養分を吸収して植物に受け渡したことで植物の上陸が可能となり地球上の緑化が進みました。

    また、菌類は岩石の風化を促進し有機物を蓄積させたり有機物の分解を通じて「土壌」をもたらしたことで植物が繁栄し、水辺の湿った土壌やリター層、マイクロハビタットという新たな生態系が誕生しました。

    この環境整備こそが、後の両生類の上陸を可能にしたと言えます。


    両生類の上陸は「危険な罠」だった

    四肢動物が本格的に上陸したのはデボン紀後期(約3億8000万〜3億6000万年前)です。

    両生類は陸上生活を送りつつも、呼吸の多くを皮膚に依存(皮膚呼吸)するため、角質層は薄く、常に湿った皮膚を残す道を選びました。

    これは真菌など病原体に対して極めて脆弱な進化的トレードオフであったため、ツボカビの遊走子が活動するために不可欠な「水分」と、両生類が生きるために維持すべき「湿った皮膚」が、同じ場所(水辺のニッチ)で重なりました。この段階で、両生類がツボカビにとって新たな宿主となったと考えられます。

    現在のBdやBsalは両生類の「ケラチン」を分解しますが、ツボカビ門の多くの種は、本来キチン(昆虫や他の菌類の細胞壁成分)やセルロース(植物の成分)を分解する能力を持っています。水辺の植物遺体(セルロース)や、両生類より先に上陸していた節足動物の死骸(キチン)を分解する腐生菌として生活していたものが両生類の皮膚に寄生し多糖類(糖鎖)や剥がれ落ちた皮膚のデトリタスを栄養素としていたのではないかと考えます。

    皮肉にもツボカビが用意した湿潤な新世界に踏み込んだことが4億年に渡る共進化の旅の幕開けとなりました。


    両生類の皮膚防御システム:全4層の連合軍体系

    両生類(特に有尾類)の生存戦略は、4億年の進化を経て構築された「生体」と「微生物」による連合軍(ホロビオント)によって支えられています。
    ※以下は、両生類皮膚防御を理解するための概念モデルです。

    【第1層:微生物バリア】 — 前線の偵察部隊・同盟軍
    構成
    : Janthinobacterium lividumやバチルス属(B. licheniformis 等)などの有益菌。
    役割(戦術): 抗菌物質(ビオラセイン、リケニシン等)の放出、病原菌とのニッチ競争、バイオフィルムによる物理遮断。
    情報戦の役割:有益菌が敵(ツボカビ等)を分解し、その情報を皮膚の樹状細胞(偵察兵)に伝える「通信兵」として機能します。
    また近年の研究で、単なる「通信(情報)」だけでなく、何パターンもの「兵器の部品(TTXの類似体や前駆体)供給」を微生物が行っている共同作業説が非常に有力なシナリオとして注目されています。

    【第2層:化学バリア】 — 研究開発部門・軍需工場
    構成
    : 顆粒腺から分泌されるAMP(抗菌ペプチド, antimicrobial peptides:マガイニン、カテリシジン等)。
    役割(戦術): 第1層を突破した病原体の細胞膜を直接破壊する「生体内の弾薬」。
    運用ロジック:本部(第4層)の指令に基づき、最も殺傷力の高い組成へ微調整や生産強化を行い、弾薬の無駄打ち(エネルギー浪費)を防ぎます。

    【第3層:物理バリアと再生】 — 土木工事・インフラ再建
    構成
    : 表皮角質層、ムチン(粘液)、および幹細胞による組織再生。
    役割(戦術): 感染部位を脱皮によって物理的に捨てるパージ(リセット)と、組織の完全修復。
    運用ロジック:第1層が時間を稼ぐことで、本部はパニックに陥ることなく、安心してインフラ再建(再生)に全エネルギーを注ぎ込めます。

    【第4層:全身免疫と恒常性】 — 統合参謀本部・司令部
    構成
    : 獲得免疫(抗体)、T細胞、マクロファージ、および自律神経・内分泌系。
    役割(戦術):「学習」と「持続」。過去の敵を記憶し、リソース(エネルギー分配)を最適化します。
    本部の判断:
    最適化: 偵察情報に基づき、特異的抗体の配備や戦法を決定します。
    抑制: 同盟軍(第1層)が防戦している間は、過剰な攻撃指令(第2層の乱射)を抑え、自軍の領土(皮膚)を荒らさない「冷静な統治」を維持します。


    無尾類の再生能力は、完全変態と免疫成熟を含む生活史戦略の中で維持されなくなった

    無尾類は尾がなく切られる部位が少ない、四肢が短く再生メリットが低い、捕食圧への対策が跳躍・毒・警戒色という特徴があり再生して得られる利益が小さいため高速化・高繁殖・強免疫という別の生存戦略を選んだ結果、再生という古い技術を維持できなくなりました。

    Bdパンデミックは無尾類の進化的選択の弱点を突いた現象と言えます。

    ・再生が限定的
    ・AMP暴走後の選択肢がほぼない


    Bsalは再生そのものを標的にした唯一の真菌

    BsalはK-Pg境界付近(約6500万〜5000万年前)でアジアで進化した有尾類が寒冷な気候に適応しながら分布を広げた時期にBd系統から分岐しました。

    Bdは宿主を多数選べますがBsalは有尾類しか宿主選択肢がなかったためBdとは異なる進化をしました。

    有尾類は肺を持たないサンショウウオ(プレソドン科など)や皮膚呼吸への依存度が極めて高い種が多く、皮膚の角質化は窒息に直結する死活問題です。

    Bsalは宿主の皮膚を溶かす(潰瘍を作る)ことで宿主を生かしたまま自身の増殖場所を確保する進化を遂げました。

    これに対しアジアの有尾類は、数千万年かけてこの「皮膚に穴が開いても治す」ことで持ちこたえるための再生能力を確立しました。

    再生能力は、系統的には獲得免疫を確立した顎口類(魚類)以前のより原始的な動物、さらには地球最初の生命体である単細胞生物にまで遡る、極めて「古い技術」でツボカビとの進化スピードの圧倒的な差により新しい遺伝情報を創造するよりも古いプログラムを再起動させてアップデートすることが最も早い対応策であったと言えます。


    進化スピードの圧倒的な差
    世代時間(次世代の繁殖個体が生まれるまでの期間)の比較
    ツボカビ
    世代時間:数日~数週間
    100年間の世代数:約1,000〜10,000世代
    サンショウウオ
    世代時間:3~10年
    100年間の世代数:約10〜30世代
    カエル
    世代時間:1~3年
    100年間の世代数:約30〜100世代


    再生と免疫の歴史的なタイムラインの比較

    再生(修復):約38億年前〜
    最初の生命(単細胞生物)

    組織・全身再生:約10億年前〜
    初期の多細胞動物(海綿、ヒドラ)

    自然免疫:約10億年前〜
    多細胞生物の自己防衛の始まり

    獲得免疫:約5億年前
    顎を持つ魚類(顎口類)の出現


    再生能力は陸上への進出と共に失われた

    乾燥とROS:陸上では、高い紫外線やROS(活性酸素)にさらされ、組織の脱分化・再分化(再生)が困難
    速い修復の必要性: 陸上の感染リスクが高い環境下では、時間をかけて再生するよりも、傷口を素早く閉じる(免疫系による修復)方が生存に有利


    一方、この歴史を持たないヨーロッパのファイアサラマンダーなどは、Bsalの破壊スピードに再生が追いつかず、あっという間に全身の皮膚機能を失って死亡してしまいます。

    一つでも欠けてはいけない再生の5つの前提条件をひとつずつ奪ってしまう「殺そうとしても死なない宿主確殺戦略」への進化

    炎症が低下可能か→✕
    ・表皮が急速に壊死
    ・好中球・マクロファージが大量流入
    ・慢性かつ制御不能な炎症

    感染が局所に留まっているか→✕
    ・表皮全体にパッチ状壊死
    ・境界不明瞭な病変

    基底膜・真皮が残っているか→✕
    ・角質と基底膜を溶かす

    再生に必要な時間が確保されているか→✕
    ・発症から致死までが極端に短い
    ・再生プログラムが始動する前に崩壊

    代謝・浸透圧がまだ保たれているか→✕
    ・表皮バリア喪失
    ・電解質・水分調節破綻


    マクロファージの役割:哺乳類ではマクロファージが「攻撃と炎症」を主導しますが、イモリなどでは「組織修復の指揮」を執ります。この「炎症の抑制」を逆手に取り、制御不能な炎症を引き起こすことこそが、Bsalが突いている最大の弱点であると言えます。


    モデル例

    第1層では、皮膚表面という限られた生態系で有益菌のマイクロバイオームとツボカビが増殖・占拠・抑制をめぐる低強度ですが持続的な競争を続けています。

    マイクロバイオームが劣性になり第2層に達した時、生態系崩壊センサーの反応によりAMPという核のボタンが押されます。(パターン認識受容体、皮膚損傷シグナル、真菌由来分子などから第4層が判断します)

    傭兵という有益菌はすでに殲滅に近い状態なので敵もろともすべてを消し去る焦土作戦と言えます。

    ここで止まれば皮膚の修復により0(ゼロ)から復興(有益菌の再共生)を始めることができます。

    脱皮も古くなった角質層を捨て、下層から新しい表皮を押し上げる定期的な自己修復と言えます。

    これは日常的に起きている回復で、AMPによるリセットが止まらない場合、炎症型免疫は抑制され、代わりに再生プログラムが起動します。

    強い免疫反応は再生と相性が悪く有尾類は免疫(炎症)を抑えて再生に切り替えることになります。

    通常、哺乳類の免疫システムは、傷口を即座に塞ぐために「炎症→線維化(瘢痕)」というプロセスを強行します。イモリはこの瘢痕という「呼吸器官の喪失」を抑えるために、独自の進化を遂げました。

    哺乳類の戦略:溶接による「遮断と排除」
    哺乳類は、傷ができると「瘢痕(溶接)」によって一刻も早く外界との接触を断とうとします。
    傷口に入り込む細菌は、たとえ常在菌であっても感染症(化膿)の原因となる「汚染物質」となるので強力な炎症(第3層)によって、マイクロバイオームごと細菌を焼き払い、線維組織で物理的な壁を作ります。この応急的な「溶接」された瘢痕組織には、本来の皮膚にある「毛穴」や「皮脂腺(汗腺)」が存在しません。マイクロバイオームが住み着くための「家(腺組織)」が失われるため、瘢痕部分は正常な微生物叢を維持できなくなります。つまり、哺乳類においてマイクロバイオームは「傷が治るのを邪魔する存在」と扱われます。


    有尾類の戦略:再生による「再植林と共生」
    有尾類が行う「大規模修復(再生)」は、単に見た目の再現性だけでなく、マイクロバイオームが住むための「生態系(インフラ)」ごと建て直す作業です。
    有尾類の第1層(マイクロバイオーム)は、ツボカビなどの強敵から身を守るための「生物兵器」です。再生によって、これらの細菌が住み着くための粘液腺や分泌腺を完全に復元します。
    再生された皮膚は、再び特定の粘液を分泌し、特定の有益菌(傭兵)だけを選別して住まわせることで第1層(マイクロバイオーム)の防御力が100%回復します。


    現在のヒトの再生医療や外科手術の基本は無菌状態(アセプティック)です。
    有尾類がBsalとの共進化で守り抜いた「微生物との絆」を理解することなしに、ヒトの再生の封印を解くことはできないと言えます。


    モデル例2

    ツボカビ治療にはイトラコナゾールが飼育下・研究・保全目的に限って使用されますが、薬剤などを使用した場合、病原菌だけでなく第1層(有益菌)も一掃して焼け野原にしてしまいます。
    さらにその反動で第2層(AMP)を強制的に起動させます。
    その結果、皮膚は無菌かつ高炎症状態に固定され、再生に必要な微生物・構造・時間のすべてを失います。

    初期感染の薬剤治療はツボカビを駆逐できる可能性がありますが、その副作用として「第1層の全滅 + 第2層の暴走」が起きると、個体は「ツボカビには勝ったが、自らの免疫と薬剤のダメージで死ぬ」あるいは「生き残っても二度と再生できない体になる」という、致命的な帰結を辿る可能性があると言えます。

    細胞毒性
    ・浸透圧障害
    :薬浴によって皮膚の生理機能が一時的に乱れます。


    肝臓への三重苦の負担
    薬剤:外来毒物の分解(化学的処理)
    ・AMP暴走:再生に使うはずだった資材(エネルギー・アミノ酸)を、AMPの合成に強制転用し代謝破綻
    ・「ツボカビや共生細菌の死骸」による毒素ショック:菌の死骸や放出される毒素(エンドトキシン、プロテアーゼ等)の処理が同時に重なることで、肝不全に近い状態に陥るリスクがあります
    また、菌の死骸から病原体関連分子パターン (Pathogen-Associated Molecular Patterns,PAMPs)を検知した免疫系がAMPをさらに分泌するという悪循環を生みます


    Bdがパンデミックになった原因

    現在、世界中で両生類の約4割が絶滅の危機に瀕しており、1980年代以降、急速な減少が確認されています。

    主な原因は、生息地の破壊・汚染、気候変動、外来種など多くの影響によりますが両生類の絶滅のうち、約80%がツボカビ症を主因としているとの報告があります。

    現在の絶滅危惧リスクの主な要因の比較
    (第2回世界両生類アセスメント(GAA2)の主要データに基づく)
    ・気候変動: 39%
    ・生息地の破壊:37%
    ・感染症(ツボカビ、ラナウイルス等)
    ・過剰な利用(捕獲・取引)
    ・外来種の影響
    ・環境汚染
    これらが相互に作用(相乗効果)して絶滅リスクを高めています
    例:

    ・「冷涼な避難所」の喪失:温暖化とそれに伴う気候の不安定化がツボカビにとっての「最適温度域」に突入し高地の希少種たちが、ツボカビの猛攻にさらされています。
    ・熱ミスマッチ仮説:両生類とツボカビでは、気温の変化に対する適応スピードが異なります。急激な気温変動が起きると、両生類の免疫系は「設定温度の調整」に追われて疲弊し、隙が生まれます。その一瞬の隙を、温度変化に強いツボカビが狙います。

    Bdが世界的なパンデミック(汎流行病、ここでは動物における汎流行病「パンズーティック,Panzootic」)となった主な原因は、食用やペット、研究用としての国際的な動物取引です。

    国際的な動物取引
    食用ガエル貿易:ブラジルなどの主要な食用ウシガエル供給国から、米国、日本、韓国などの市場へ生きたウシガエルとともに菌が運ばれました。
    ペット・研究用取引:ペット用の色鮮やかな熱帯産のカエルや研究用のアフリカツメガエルなどが国際的に移動する際、無症状のまま菌を保有(キャリア)して他地域に持ち込みました。

    「沈黙の運び屋」による広域拡散:これらキャリアとなった種はBdに対して高い耐性を持つため、発症せずに菌を運び、他の感受性の高い在来種がいる地域に持ち込んでしまったことが、悲劇的な結果を招きました。
    Bdが持ち込まれた先の地域の在来両生類は、この特定の菌株に対する免疫や防御機構を持っていませんでした。長い進化の過程で Bd に遭遇したことがなかったこれらの「ナイーブな(免疫的に無知な)」宿主に感染が広がった結果、Bdが致死的な病気として作用し、多くの種の個体群が激減したり絶滅したりしました。

    「キャリア(保菌者)」から「発症者」への変貌:国際取引では、長時間の輸送、急激な温度・湿度変化、狭い容器での過密状態が避けられません。これが動物に極度のストレスを与え、以下の変化を引き起こします。
    ・マイクロバイオームの崩壊: 安定した生息地から引き離され、不衛生な環境や異なる水質に晒されることで、皮膚上の有益な常在菌(Bdの増殖を抑える菌)が死滅・変質します。
    ・AMP(抗菌ペプチド)の減少:ストレスホルモン(コルチコステロン等)の分泌により、本来皮膚を守るはずのAMPの産生が抑制されます。
    野生下では共生に近い形でBdを保持していた「無症状のキャリア」が、取引というストレス下で大量の菌を排出する「スーパー・スプレッダー」に変貌します。これにより、輸送中や取引先(ペットショップや市場)で、本来なら感染を免れるはずだった他の個体や他種にまで爆発的に感染が広がります。

    次にあまり指摘されない餌の変化が及ぼす「移動する病原体 vs. 移動できない共生餌環境」のミスマッチの影響にも触れておきたいと思います。


    毒・免疫・マイクロバイオームだけでなく「餌」も含めた共生システム
    近年の研究では、皮膚上の「毒」と「AMP」は独立して機能しているのではなく、相互に補完し合っていることが示唆されています。
    ブースター効果の消失:
    野生下では餌由来アルカロイドがBdの増殖を物理的に抑制し、その間にAMPが効果的に働くという連携がありますが、毒素が消えることでAMPが「単独」で菌と戦わなければならなくなります。
    オーバーワーク:
    防御壁(毒素)がなくなることで、AMPだけで菌を抑え込もうと過剰に分泌を試みた結果、分泌腺が疲弊し、最終的にAMPの質や量が低下する現象(免疫疲労)が観察されています。

    マイクロバイオームの変化を通じた間接的影響
    餌の変化は、皮膚のマイクロバイオームを劇的に変えます。
    相互作用の崩壊:
    皮膚上の特定の善玉菌は、宿主のAMP分泌を刺激したり、AMPと協力してツボカビの増殖を抑える物質を出したりします。
    AMPの変質:
    餌(栄養)が変わることで皮膚のpHや粘液の質が変わり、常在菌が変化すると、それに応答して作られるAMPの「種類(カクテル)」のバランスが崩れ、対Bdへの有効性が失われることがあります。


    菌の起源と拡散:Out-of-AsiaからOut-of-Brazilへ
    菌の起源については東アジア(朝鮮半島など)が起源とされていましたが、現在のゲノム解析により、ブラジル起源の系統が世界的な拡散に大きく寄与していることが再確認されています。
    2026年1月の研究により、特定の致命的な系統(Bd-Brazil)はブラジルが起源であるという強力な証拠が示されました。この系統は1916年にはすでにブラジルに存在しており、貿易ルートを通じて世界へ広がったと分析されています。


    ツボカビの生存力と拡散能力
    Bdは、環境変化に対して非常に強い生存力を持ち、急速な拡大を可能にしました。
    運動性のある胞子
    :水中を泳ぐことができる「遊走子」を持ち、水系を通じて直接他の個体に感染します。
    環境への適応:宿主である両生類が全滅しても、淡水生態系内で生き残ることができ、再び新たな宿主に感染する機会を待ちます。
    単に水中で数週間生存できるだけでなく、ザリガニやアカミミガメなどの他の生物に付着して生き延びることや、飼育水や水苔など湿った梱包材の中に遊走子が生息して菌を拡散させている可能性も注目されています。

    現在確認されている主要な「系統」
    Bdには、大きく分けて以下の5つ(あるいはそれ以上)の主要な系統が存在します。
    Bd-GPL (Global Panzootic Lineage):世界中に拡散している最も凶悪な「パンデミック株」。
    Bd-Asia (Asia-1, 2, 3):アジア各地に分布する、多様性の高い古い系統。
    Bd-Brazil (Asia-2/Brazil):ブラジルの固有系統、あるいはアジア由来とされる系統。
    Bd-Cape:主にアフリカで見られる系統。
    Bd-CH:スイスなどで見つかっている系統。

    それぞれの系統のストーリー
    両生類の繁栄とそれに伴うツボカビの多様化・土着化のストーリーに於いてK-Pg境界は最も重要な「運命の分岐点」であると言えます。
    「分解者の黄金時代」とツボカビの台頭:K-Pg境界直後、巨大隕石衝突により地球上には死滅した動植物の膨大な有機物が溢れ、日光を遮られた植物が枯死する中で、菌類が爆発的に繁栄しました。この時期はツボカビがBdとBsalに分かたれた重要な時期でもあります。
    多くのツボカビ門の菌はもともと水中で有機物を分解する「腐生性」でしたが、この時期の爆発的な増殖と、生き残った数少ない宿主(両生類)との高密度な接触が、「脊椎動物の皮膚への寄生」という新たな生存戦略を加速させたという説もあります。

    Bd-GPL:アジア(韓国など)が有力な候補ですが、北米東部などの新候補も浮上していて一点に絞り込むには至っていません。むしろ、複数の地域のツボカビが近年の人間の貿易によって混ぜ合わされた末に誕生した「国籍なき流浪の菌」である可能性も視野に入れて調査が継続されてます。

    Bd-Asia:北米や欧州が壊滅的な打撃を受ける中、当時の東アジア(現在の中国南部から朝鮮半島周辺)は、比較的温暖で湿潤な気候が維持された「マクロ・レフュジア」であったと考えられています。また、急峻な山岳地帯、無数の河川、複雑な海岸線、そして氷期・間氷期に伴う海面変動と山岳氷河が「マクロ・レフュジア」内部を無数の「ミクロ・レフュジア」に細分化しました。多くの両生類が絶滅する中で、東アジアのサンショウウオや一部のカエル類は、「ミクロ・レフュジア」の環境下で「孤立」と温暖化による「再統合(交雑)」を繰り返し生き延びました。結果として東アジアという「マクロ・レフュジア」は最もツボカビが「多様化」したホットスポットとなりました。
    この時期に、Bdは宿主の免疫系を完全に破壊するのではなく、皮膚の表面(ケラチン層)でバランスを保ちながら寄生・共生する能力を獲得し土着化したと考えられます。

    Bd-Brazil:当時の南米は、現在の「アマゾン」のような広大な熱帯雨林ではなく、隕石衝突の影響で森林構造が劇的に変化した直後の時期にありました。衝突直後、南米の森林は一度焼き払われ、その後、針葉樹中心の森から現在の「被子植物(広葉樹)中心の熱帯雨林」へと急速に遷移していった時期です。世界的な寒冷化の後、南米は急速に温暖湿潤化が進みましたが、山脈の形成や海進(海水面の上昇)により、地形が細かく断絶されていました。最新のゲノム解析によれば、南米(特にブラジル大西洋岸森林)は、東アジアとは独立した古いレフュジアであった可能性が高いとされています。細分化された湿潤な森林が、Bd-Brazilのような独自系統を「孤立」させ、長期間かけて土着化させる環境を提供しました。

    Bd-Cape:アフリカ大陸は、K-Pg境界当時は「孤立した島大陸」のような状態にありました。衝突後の寒冷化の影響を強く受け、現在のサハラ砂漠がある地域も含め、多くの場所が一時的に乾燥化または寒冷化しました。しかし、中央アフリカや西アフリカの一部には、湿潤な森林が断片的に残りました。アフリカツメガエルの祖先を含む両生類が、これらの断片的な湿潤環境(レフュジア)で生き延びました。Bd-Cape系統は、この「孤立」した環境でアフリカ固有の両生類とともに共進化し、他大陸の系統とは異なる独自の遺伝的特徴を固定させたと考えられています。

    Bd-CH:K-Pg境界直後の寒冷化の際、ヨーロッパは多くの島々に分かれた群島のような地形でした。東アジアが「広大な避難所」であったのに対し、ヨーロッパではアルプス山脈の形成や海進・海退により、湿潤な環境がパッチ状(断片化して)に残りました。Bd-CHの祖先となるツボカビは、これらの断片的に残った湿潤な低地や、後に形成されるアルプス山麓の特定の水系で、ヨーロッパ在来の両生類とともに生き延びたと考えられています。Bd-CHは、世界を滅ぼしている猛毒のBd-GPLとは異なり、在来種に対して比較的低い毒性を示すことが知られています。 K-Pg境界後の数千万年間、狭い閉鎖的な「孤立」した環境で特定の宿主と付き合ってきたため、「宿主を皆殺しにせず、細く長く生き残る」という、東アジアの土着系統に近い共生的な進化を遂げました。

    このように世界の各地でバラバラに「土着化」し、互いに顔を合わせることがなかったツボカビたちが、数千万年後の現代、「国際的な動物取引」という人類の活動によって、あたかもK-Pg以前のパンゲア時代のように再会することになりました。4億年にわたる両生類とツボカビの共進化を僅か100年ほどの時間で失わせ土着菌としてのツボカビ菌を確殺兵器まで押し上げたヒトの欲と無知が現在のパンデミックの本質的な恐ろしさです。

  • アオミオカタニシは光合成をする?

    2025年5月15日X投稿より

    アオミオカタニシ(学名:Leptopoma nitidum)は一部の奄美群島を除く琉球諸島、台湾 、パプアニューギニア、インドネシアなどで生息が確認されている陸生巻貝です。

    詳しい食性が解明されておらず中華圏では青山蝸牛は蘚苔類(苔)や地衣類(菌類と藻類の共生体)を食べると言われ、日本ではすす病(糸状菌)に罹患した葉を供することで長期飼育が実証されています。

    エメラルドグリーンに近い綺麗な殻と触角の根元に位置する愛くるしい黒い目が特徴で観賞価値が非常に高く、流通価格も安価であることからもっと人気がでてもおかしくないと考えますが、具体的な餌が不明であり判明している餌も持続的な調達が困難であること、そして環境省レッドリストの準絶滅危惧に掲載されていることが普及への障壁となっていると考えられます。

    一方で近年の生物飼育の多様化より様々な生物が捕獲され飼育されるようになりましたが飼育方法が確立されていない種の採取やエゴ的な看取り飼育は芳しいとは言えず、況して希少種ともなれば目先の利益を優先したり飼育記録を競うのではなく飼育インフラを構築するための研究を優先すべきであると考えます。

    流通単価は安いものの準絶滅危惧ということもありアオミオカタニシの効率的な飼育方法を攻略しようと考えましたが、実のところ興味を持ったのは特殊な食性があるのではないかと考えたためです。

    アオミオカタニシは人間の生活圏で発見されることがあるにもかかわらず何を食べているのかわからないということは、餌を食べていることに気付かないのか餌を食べないということが考えられます。

    前者については軟体動物の多くはヤスリ状の歯舌を持ち、時に移動しながら餌を削り摂餌します。

    すす病に罹患した葉は表面に黒いすすが付着することで確認され、すすが綺麗に無くなればアオミオカタニシが削って食べたという情報が視覚で確認できます。

    自然界には視覚で確認しにくいものも多く存在し自然下では陸生のカタツムリやナメクジのように葉や樹皮に発生したカビなどの菌類を食べていると想像できます。

    現状ではアオミオカタニシは野生個体が採取され飼育されることになりますが、隠れ家や足場として生息地の葉や枝なども採取され飼育下に持ち込まれることがあります。

    また、糞便から消化されなかった菌類などの胞子が排泄されることでアオミオカタニシの餌として用意された昆虫ゼリーや床材として用意されたキッチンペーパーなどを培地として増殖します。

    生息地から持ち込まれたこれらの菌類などを食べることでしばらく生き存えることができます。

    尚、生物飼育には香料、保湿剤、蛍光染料配合の可能性があるティッシュペーパーなどは使用せず、食品に使用できる基準を満たしたパルプ100%のキッチンペーパーを使用することをお勧めします。

    台湾の愛好家の間では定期的に自然界から葉や枝を採取し水で濡らした後飼育ケースに入れる飼育方法があるようです。

    これらの菌類は例えば生菌としての麹菌や酵母菌の胞子や胞子を激活(菌起こし)したもので手軽に代用できると考えられます。1)

    カビは菌糸を成長させるとき環境中のカルシウムイオンを取り込むことがわかっていますので水溶性カルシウムを併用するとカビの成長が速く、同じくカルシウムを必要とするアオミオカタニシにも有効であると思われます。

    次に後者ですが、アオミオカタニシの分布から考えると太古の海退により海洋性巻貝が陸に残され一旦淡水化したかどうかは定かではありませんが、後に地殻変動で移動したのではないかと思われます。

    生物のなかでも腹足類(巻貝)は積極的に陸上生活に適応した動物であると言われています。

    水生のタニシは藻類を好んで食べますが陸上で得られる藻類の量は圧倒的に少なくなるのではないでしょうか。

    例えば水生藻類は大量生産が可能なバイオマス原料として培養が盛んに行われますが陸生藻類を培養することはありません。

    環境変化により餌がなくなると生物は餓死するか別の餌を探すことになりますが、湿度が高い地帯で岩や植物に局地的に発生する水生藻類に近い藻類(風で飛ばされた水生藻類の胞子かもしれませんが)の他はやや乾燥地帯に生息する気生藻や地衣類に依ることになります。

    しかし気生藻や地衣類をアオミオカタニシが好んで食べることはなく、苔にしても本体を食べる様子は伺えずせいぜい胞子や不定芽を食べる程度ではないかと思われます。

    既述のようにアオミオカタニシは緑色の殻を持ちますが実際の殻は薄い乳白色で外套膜が透過して見えている状態にあります。

    沖縄諸島には形状が似たオキナワヤマタニシ(学名: Cyclophorus turgidus turgidus)が生息していますが殻の性質はやや異なるようです。

    このことは非常に興味深い特徴でありアオミオカタニシの食性と大きな関係があるのではないかと考えました。

    貝類の殻は外套膜から分泌される炭酸カルシウムの結晶で形成されるため無色から白色をしていますが環境や食物の影響で色素が混ざり多用に変化します。

    貴重な藻類を有効利用するために同じ腹足類である一部のウミウシに見られるような餌として食べた藻類から色素体(葉緑体)を細胞内に残す盗葉緑体現象(Kleptoplasty)がアオミオカタニシにも見られるのではないかと考えました。

    夜間に活動し藻類などから葉緑体を細胞内に集めて昼間は木の幹や葉に留まり、安全なサンルームにこもりながら日光浴を行うことで栄養を生産することは餌の少ない陸上での効率的な生き残り戦術であったのかもしれません。

    また、葉緑体を保存できる期間によっては陸上で長期のクリプトビオシス(乾眠)に近い状態を維持することも可能であったかもしれません。

    アオミオカタニシの好物には大量培養可能な緑藻も含まれ特に水槽壁面に付く遊走子(zoospore)であると言えます。

    このように人工的に生産できるアオミオカタニシの餌を例として共有させていただきました。

    緑藻の遊走子に関しては水槽などの容器で培養する際にある程度の液肥を必要とし副産物として緑水が生産されることやその緑水を種水として保存する必要が課題と考えられます。

    現在、保存性と再現性に優れた緑藻や苔の胞子をインスタント飼料として使用する実験段階に入りましたので成果が現れましたら報告させていただきます。

    参考

    1)枯葉を用いた麹菌培養

    使用する葉や枝などの原料は薬剤使用の無いものを用意します。

    枯葉は保存性が優れていますので当店では枯葉を使用します。

    枯葉を5%糖液の入った容器に浸し電子レンジで1分程度殺菌処理します。

    糖液には更に食品添加物としての塩化カルシウムを混ぜておきます。

    加熱が終了したら原料を糖液から取り出し冷めるまで待ちます。

    冷めた後、種麹の接種を行い雑菌の混入防止と十分な湿度を保てるように食品保存用袋に入れ35℃を保ちます。

    通常の麹菌の発酵には2日ほどかけますが概ね1日待てば良いかと思います。

    麹菌は好気性菌なので数回は酸素を供給してください。

  • ホワイトワーム

    2025年2月7日X投稿より

    ダーウィンが最も愛した生き物と言えるのがミミズです。
    ダーウィンは40年に亘りミミズを研究し”a hobby-horse”(好きな物の追求)と表現しています。
    趣味を表す”hobby”の語源は1400年頃に使われていた「小型で活発な馬」を意味した”hobi”や”hobyn”と言われています。
    後に、棒に馬頭を装飾した日本で言うところの春駒にまたがり馬術を模して競うスポーツの”hobby-horse”を意味するようになり、1816年に「好きな物の追求、趣味、おはこ」といった現代的な意味に変化しました。

    ダーウィンが亡くなる半年前の1881年に出版された最後の著書「The Formation of Vegetable Mould Through the Action of Worms」には、地質学者に戻った視点からミミズの活動による土壌の小さな変化の累積が大規模な変化に繋がると書かれていますが、これはダーウィンが提唱した種が変化し多くの世代を経て新しい種が誕生する進化と共通のロジックが見て取れます。
    ダーウィンの根気強く鋭い観察力の積み重ねが創造論の社会を一変させたのですからこれもまた時代の新化(進化)と呼べるかもしれません。

    ミミズの仲間は釣りをはじめとして多種多様な生物の餌として使われていますので馴染み深い人は多いと思います。
    さらに、タンパク質、必須アミノ酸、n-3 PUFA(DHAを除く)、ミネラルや微量元素が豊富でDHAレベルを高く培養すれば海洋生物養殖用の餌としても使用できることがわかっています。
    その餌生物としてのミミズの中から日本での流通が少ないホワイトワームを取り上げてみたいと思います。

    Enchytraeus属のミミズとしてはホワイトワームとグリンダルワームが餌生物として利用されています。
    業界的にはホワイトワーム(Enchytraeus albidus Henle, 1837)、グリンダルワーム(Enchytraeus buchholzi Vejdovský, 1879)と定められていますが多種で同定が難しいミミズですので複数種が流通している可能性があります。
    但し、両者の流通名としての区別はサイズにありますので流通名が混同することはありません。

    系統上は多くの種がE.buchholziの近縁グループに属し体長15mm以内の小型種で、非系統種のE.albidus群は30〜40mmに達すると言われています。
    また、一部のグループにはヤマトヒメミミズ(E.Japonensis)のように砕片分離(無性生殖)で再生により増える種も存在します。
    WoRMSの分類によると2025年2月時点で36種なので50種程度存在したものからまとめられる傾向にあるようですが、タイプ種のE.albidusが形態的に類似した近種の種複合体(species complex)であることがわかっていますので同定の難しさが感じられます。

    培養はどちらも容易で非常によく増えますがホワイトワームの至適温度は10(4)〜20℃と低めで、24℃を超えると繁殖スピードが低下し、30℃を超えると致死率が高くなるので夏季の温度管理が困難になることが日本で普及しにくい理由と考えられます。

    歴史的に見ると旧ソ連では養殖チョウザメの稚魚の餌として大規模なホワイトワームの培養が行われていました。
    25~30億匹のチョウザメの稚魚を育てる養殖場では、100~300gのホワイトワームが入った木箱が1,000個ほど並んでいたという記録がありますが現在では世界的に見てもこれほど大規模な培養を行うところはありません。
    ヴォルガ川沿いに養殖場を設立し「カスピ海チョウザメ繁殖プログラム(SRP)」を始めたのが1950年代初頭なのでそれ以降のホワイトワームの需要量の増加とともに培養技術が確率されたと想像できます。

    ホワイトワームはさまざまな培地と餌により培養できますが、牛乳に浸したパンまたはヨーグルトを塗ったパンに酵母をふりかけて培地に置く給餌方法が定石とされています。
    ロシアではミルクワームと呼ばれることが多いことからこの給餌方法も旧ソ連で考案されたと考えています。
    Enchytraeus属は自然界では土壌、淡水、汽水、さらには海岸地帯に生息しますがいずれも牛乳とは無縁の環境に感じます。
    では、何故ホワイトワーム培養に牛乳が使われるようになったのでしょうか?

    ミミズは落ち葉などの有機物を選択的に食べるほか、非選択的に土壌を食べて砂などの土壌鉱物を使い土壌有機物や微生物を擦り潰し摂取しています。
    組成が異なるさまざまな食物を消化するにはさまざまな消化酵素や微生物叢が必要になります。
    場合によっては酵素や微生物叢による解毒のメカニズムが必要になるかもしれません。
    ミミズは牛乳に含まれる乳たんぱく質の約8割を占めるカゼインを分解できる酵素を持っています。

    ところで、1878年にフレデリックによりミミズの消化管から酵素が分泌されることが確認され、1920年にケイリンによってカゼイン、ゼラチン、アルブミンを分解できるいくつかのプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が発見されたという論文や記述が見られますがこれは間違いではないかと考えています。

    ミミズの酵素が発見されて数十年後の1980年頃から日本、中国、韓国に於いてミミズ酵素の研究が盛んになる時期がありました。
    1983年に元宮崎医科大学副学長(現宮崎医科大学名誉教授)の美原教授がLumbricus rubellus(赤ミミズ)から血栓を溶かす線溶活性化酵素を発見しミミズの名に因みルンブロキナーゼと命名しました。

    この少し前の1979年にPakやParkという情報から判断しておそらく韓国人の朴(パク)姓の研究者によってカゼイン、ゼラチン、アルブミンを分解する酵素が特定されたのではないかと認識しています。
    (李兴发; 贾飞飞; 刘建蓉; 侯全民 ;王辉,2005 )
    すなわち、ミミズがカゼインを分解できることが生理学的に解明されるより前に旧ソ連の養殖業界では実績により証明していたと考えています。
    1958年にソ連農業省が発行した「Разведение живого корма」に投稿された D. ラドチェンコによる生き餌の繁殖の記事には「牛乳がないと発育がはるかに遅くなる」と記載があります。

    本題に戻りホワイトワーム培養に牛乳が使われた経緯は明らかにされていませんので正確なことはわかりませんが、Enchytraeus属の学名の由来から推定することができます。
    属名には「土鍋の中にいる」のような意味があり、英名では”Pot Worms”(植木鉢ミミズ)と呼ぶこともあります。
    ヘンレ(1837年)によると植木鉢の水の中、あるいは植木鉢の水と関連して発生する虫が由来となっているようです。

    ロシアでは牛乳やケフィアを有機肥料(一部の植物を除く)として利用することが古くから定着しています。
    現在では希釈しヨウ素を添加して牛乳肥料を作りますが、牛乳には植物の栄養源として機能するカルシウム、タンパク質、脂肪、その他の栄養素が豊富に含まれており、根系を強化して開花を刺激し、うどんこ病やその他の真菌性疾患に対し一定の効果があると考えられています。

    時として大量発生する白い害虫が植木鉢の中で蠢いたり団子状に絡み合う不快な姿に煩わされたことでしょうが、牛乳を土壌に滴らせば簡単に増えるというヒントをもとに水産業に貢献できる益虫に変えることに成功しました。

    チョウザメ養殖が行われていた当時、特にレオニード・ブレジネフの治世中(1964年10月~1982年11月)は「経済の停滞期」と言われていますが、コスイギン改革とも言える「第8次5カ年計画」(1966~1970年)は「黄金5カ年計画」と呼ばれるほどの高い経済成長が得られ、ほとんどの家庭が冷蔵庫、テレビ、洗濯機、ラジオを購入する機会に恵まれたと言われています。
    また、牛乳の生産と加工の絶頂期に位置し乳製品にとっても黄金時代でした。
    牛乳、カッテージチーズ、チーズ、サワークリーム、ケフィア、発酵ベークミルクなどの乳製品が国民の毎日の食卓に欠かせないものであったということからも乳製品はもっとも身近なホワイトワームの栄養素であったと言えます。

    牛乳の殺菌方法は国により異なるため生き残る微生物の種類や数に違いが生じることで栄養価や土壌に散布後の微生物の増殖に差が生じると考えることもできますが、カゼインがホワイトワーム培養に与える影響に注目した研究も存在することから考えてホワイトワームはタンパク質要求量が高いと考えることができます。(Timur et al. 2003)

    ホワイトワームが大量発生する身近な環境として植木鉢以外にミミズコンポストがあります。
    日本ではコンポストに発生するEnchytraeus属のミミズを一般的にヒメミミズと呼びます。
    通常シマミミズなどのコンポストワームに対して肉類や乳製品といった酸性食品を与えることは「サワークロップ」または「真珠の首飾り」と呼ばれる致命的なタンパク質中毒を引き起こす原因となることから禁忌とされています。
    シマミミズなどツリミミズ科のミミズには石灰腺と呼ばれる腺があり、余分な炭酸カルシウムを出すことで食べ物の酸性を中和し、食道から腸へ送る前に食べ物をカルシウムで包み込む一種の解毒システムを持っています。
    酸性食品やタンパク質過多の場合、餌や土壌中にカルシウムや擦り潰すための砂が不足する場合など消化プロセスが損なわれると消化器官内で発酵によるガスが発生し最終的に消化器官が破裂し死に至ります。
    この時の外見が真珠に糸を通した首飾りに似ていることから「真珠の首飾り」と呼ばれています。

    このようにタンパク質資源の少ないミミズコンポストにタンパク質要求量の多いヒメミミズが大量発生することは両者が片利共生の関係にあると捉えることができます。
    また、餌を与えすぎたり多湿になるなど安定したコンポストの環境に変化が訪れた時に均衡が崩れヒメミミズ優勢に逆転することがあります。
    ヒメミミズはコンポストでドライロスフィア、ドライロスフィア及びシマミミズの処理量の限界を超えた有機物により影響を受けて増えた微生物、微生物分解が進みC/N比が低下した有機物、均衡が崩れた結果淘汰されたシマミミズの死骸を食べているのではないでしょうか。
    ここで言うドライロスフィアとはシマミミズがepigeicミミズであるので糞尿などのミミズ堆肥ということが出来ます。
    ヒメミミズがいるコンポストの堆肥は窒素安定同位体比(δ15N)の分析をしてみないと正確なことはわかりませんがシマミミズのみのコンポストより栄養段階が高い堆肥であると推定できます。
    ※ドライロスフィアとはミミズの分泌物や排泄物の影響を受けた土壌のこと

    尚、シマミミズ(Eisenia fetida)の体腔液に含まれるライセニンは細胞表面のスフィンゴミエリンに特異的に結合し細胞を溶解する孔形成タンパク質毒素で哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類など多くの種に致命的な作用を与えます。
    再生能力の高い有尾類は何らかの対抗メカニズムを持ち合わせているようですが(再生を常用させると余剰体力を奪うことになりいずれ死にます)幼生、幼体、また特に無尾類のオタマジャクシに対しシマミミズを切って与えることは避け、精子への細胞毒性も強いため成体の両生類に対しても頻度を落とすか与えないことが賢明である考えています。
    (追記:餌の選択肢の少ない日本に於いてシマミミズを餌にしたいという問い合わせがありライセニン処理のポイントをまとめましたので賢明な判断のうえ自己責任で選択してください。
    1.湿ったキッチンペーパー上で数日絶食させます。
    絶食に伴い代謝が低下し細菌感染の刺激が強くなり体腔液を多く放出する可能性があります。
    一方で免疫機能としてライセニンがより活発に発現される可能性もあります。
    細菌などの病原体から身を守るライセニンの本来の目的と泥抜きに沿った方法ですが衛生面で問題が生じますので推奨されません。
    2.塩水による浸透圧ストレスを利用し自衛反応として大量の体腔液を一気に放出させます。
    海水と同等の3%以下の塩水に10秒〜30秒程度浸透させて黄色い体液(体腔液)を出すのを確認します。
    次に、真水で表面の塩分と体液を洗い流します。
    洗浄後は浸透圧の影響で弱りやすいため早い目に餌として与えるようにしてください。
    3.60℃以上のお湯で短時間加熱しタンパク質であるライセニンを変性させて毒性を消します。
    より確実な無毒化の方法ですが生き餌としての価値は失います。
    ライセニンの飛散・摂食リスクは目を含む顔周辺・口内・食道で発生します。胃に到達すると強酸や消化酵素でタンパク質分解が起こりますので分解されるまでの対策を講じることが大事です。
    但し、皮膚や粘膜が薄い両生類の特に幼生などへの給餌は避けることが大事です。
    捕食者がシマミミズを口に入れた瞬間に吐き出すことがあるのは、この細胞レベルでの刺激を不快感として感知しているためだと考えられています)

    ミミズは接触することでコミュニケーションを取り「集団決定」を行うことで知られています。
    外敵から身を守るためや雨により移動するときなど環境に大きな変化が現れたときに「ワームボール」と呼ばれる団子状の群れを作ります。
    この性質を利用して土壌からホワイトワームを簡単に収穫することができますので動画にしておきます。

  • 両生類とビタミンA

    X投稿より

    両生類のサプリメントとしてはカルシウム、ビタミン、枯草菌、乳酸菌、酪酸菌を使用しています。
    ビタミンはビタミンAのアプローチが異なるテトラ レプチゾルとGEX EXO TERRAマルチビタミンを併用しています。
    今回はビタミンAについての重要な内容となります。

    動物はプロビタミンAカロテノイドを自ら合成することができませんので食事から摂取する必要があります。
    両生類は体組織からβ-カロテンなどカロテノイドが検出されていますがβ-カロテンをビタミンAに変換し利用することができるのかどうかはわかっていません。

    いくつかの研究でβ-カロテンを分解できないことが推定され、いくつかの研究でβ-カロテンの繁殖率への有効性または分解利用の可能性が推定されています。
    そのため両生類にはβ-カロテンだけでなくビタミンAを含むサプリメントを併用し与えることが望ましいと考えられています。
    ただし、ビタミンAは脂溶性であるため主に肝臓に蓄積し過剰症となる場合がありますので与えすぎには注意する必要があります。
    また、ビタミンD代謝を妨げることから代謝性骨疾患と関連づけられることもあります。

    一方、β-カロテンなどのプロビタミンAカロテンは必要な分だけが小腸で酵素によりビタミンAに変換されますので過剰摂取はないとされています。
    注)上記のように両生類のβ-カロテンのビタミンA変換はエビデンス不足です。

    ビタミンAは細胞の成長、分化に関わる重要なビタミンですが飼育下に於ける両生類の主要な餌となる昆虫食ではビタミンAは不足するといわれています。
    ビタミンA欠乏症の代表的な症状に短舌症候群(STS)があります。
    これは両生類が獲物を捕らえることが下手になる様子から舌が短くななったと考えられたため名付けられましたが実際に舌が短くなるわけではありません。

    まず、両生類の捕食メカニズムをカエルの例で説明します。
    カエルの捕食はネズミの脳と同等の柔らかさを持つ舌と特殊な性質を持つ唾液の組み合わせで成り立っています。

    カエルの唾液は二相粘弾性流体と呼ばれる非ニュートン性流体で唾液に加わるせん断応力によって粘性と弾性の性質が変化します。
    具体的には普通の状態では唾液は粘りと弾力がありますが舌が獲物に到達すると舌を押し出す圧力により唾液は水のように流動的に変化し獲物の体の隙間にくまなく流れ込み獲物を包み込みます。流れ込んだ唾液は圧力から解放されることで再び濃く粘性を帯びた状態に戻り獲物は逃げることができなくなります。カエルが獲物を口内へ戻すと次は目の下がる圧力により再び唾液が液体に変化し獲物が舌から離れることで飲み込むことができます。

    人の舌は重層扁平上皮という角質化する粘膜で覆われていますがカエルの舌は粘液を産生する細胞を含む非角化上皮で覆われています。
    ビタミンAが欠乏すると複数の臓器で細胞変化が起こることがありますが舌が影響を受けると正常な細胞が角質化する扁平上皮細胞に置き換わる変化が確認できます(扁平上皮化生)。

    扁平上皮化生が重層化すると唾液腺が完全に塞がれるとこで唾液の分泌が止まり両生類は餌を捕まえて食べたくても餌を摂取することが困難になり体重減少や無気力状態に陥りやがて衰弱し死亡します。

    この短舌症候群は1〜2種類の昆虫のみを与えられている場合に特に発症しやすく潜在的に問題を抱えている両生類は多いと言われています。
    例えば回転率の悪いショップでコオロギだけを長期間与えられているような例が該当します。
    尚、扁平上皮化生が腎臓で発生する場合は皮下リンパ嚢や体腔内の体液貯留による浮腫症候群が見られるようになります。

    最後に注意点としてテトラ レプチゾルにビタミンB12が含有していると記載している販売サイトが非常に多いですがこれはニコチンアミド(ビタミンB3)の間違いです。
    2年前にスペクトラムブランズジャパン社へ指摘したことがありますが本家サイトの表示が一部訂正されたのみです。

    ビタミンB12が欠乏すると免疫系が損なわれますがビタミンB12 は腸内細菌によって生成されますのでプロバイオティクスで腸内環境を整えるようにしています。
    また昆虫にはビタミンB群が多く含まれています。

    ※小動物へのサプリメントは用法用量を守って正しくお使いください。
    特にオタマジャクシ、幼生、幼体に使用する場合やビタミン添加された人工飼料を与えている場合は逆効果になる場合もあります。

  • 蚕の起源

    X投稿より

    草食昆虫は単食性か寡食性あるいは狭食性が多く餌の調達が困難になることがあります。
    しかし宿主植物によっては毒性の高い二次代謝産物を生産するものが存在し毒性を摂取した昆虫が天敵に対する防御手段としてリサイクルすることになりますので餌料生物として草食昆虫を育てる場合は代替飼料が必要になる場合があります。
    ※寡食性:狭食性の一種で特定のグループの動物や植物のみを食べる食性のこと


    草食昆虫は排出、貯蔵、解毒(酵素や共生微生物)といった方法で植物が生産する防御物質に適応する進化を遂げてきました。
    例えば、日本では餌としては馴染が薄いスズメガの幼虫でホーンワームと呼ばれる餌料昆虫は主にタバコスズメガ(Manduca sexta)が流通していますが摂取したニコチンをCYP6B46遺伝子により中腸から血リンパに通過させて気門から毒霧として放出する機能を備えており天敵から身を守る手段になっています。
    故に海外ではホーンワーム用の人工飼料が販売されていますがこれらを与えた場合カロテノイド不足により体色が青緑に変化することがあります。


    同じカイコガ上科ではカイコがシルクワームとして主にカメレオンなどの爬虫類の餌として使われています。
    人間の健康食品としても知られる桑の葉を食べるカイコにも草食昆虫としての解毒機能がきちんと備わっています。
    一説によると当初養蚕は桑ではなくハリグワ(針桑)を用いていたと言われており現在でも四川省の農村部ではハリグワの柔らかい葉でカイコを育てる習慣が残っているそうです。
    ハリグワで育てられたカイコの絹は桑で育てられたカイコの絹よりも風合いが良く、色も鮮やかで非常に丈夫であることが知られています。
    1637年(明の崇禎帝10年)に宋応星が編纂した科学技術書の「天工開物」にはハリグワで育てたカイコを「棘繭」と呼び琴弦や弓弦に適していると記載があります。


    このハリグワにはプレニル化イソフラボンが多く含まれていますが、カイコの糞便中からはグリコシル化誘導体が検出されることから腸内細菌叢により代謝解毒されていることが判明し、特に枯草菌(Bacillus subtilis)をプロバイオティクスとしてカイコに与えると成長と発達が促進できることが示唆されています。
    通常カイコは桑の葉を用いることが多いですが腸内細菌叢の存在が重要であることがわかります。

    餌料生物としてのカイコは比較的高価な餌と言えますが餌の調達コストに原因があることは言うまでもありません。
    5齢カイコの体重は蟻蚕(初齢)の10,425.53倍、体面積は520倍まで成長します。 1匹のカイコが食べる桑の量は生の桑の葉で約21グラム(乾物5.25グラム)と言われていますが、そのうち85〜88%を5齢カイコで消費すると言われています。
    5齢カイコの体重は4齢カイコの4.08倍、体面積で2.24倍と加速的に成長しますが主に体内の絹糸腺という器官が急速に成長しているためで絹の材料を生産するための粗タンパク質を吸収しています。
    最終的に絹糸腺は蟻蚕と比較し体積で16万倍に達します。
    また桑は落葉樹であるため通年採取が不可能になります。

    草食昆虫の多くは臭覚受容体と味覚受容体によって餌を認識していると言われています。
    カイコの餌の選択には苦味受容体遺伝子GR66が大きな影響を与えることが判明しておりこの遺伝子が突然変異を起こすとカイコは桑以外の植物の葉やリンゴなどの果物を無差別に食べることがわかっています。
    とは言うものの食べ物により絹質へ与える影響も懸念されることから広食性のカイコが実現化されるのはまだ先のことではないでしょうか。


    絹産業として見た場合カイコには革命的な人工飼料が存在します。
    「ヨード卵・光」で知られる日本農産工業株式会社(NOSAN)の「シルクメイト」によりカイコの全齢飼育が通年可能となっています。
    カイコの餌は飼料安全法の対象とはなりませんがNOSAN社が飼料メーカーであることから飼料安全法に準じた管理がされていると推定できます。 特に飼料及び飼料添加物の表示がされている点は飼料業界のリーディングカンパニーとして称賛に値すると考えます。
    メーカーHPの製品の紹介によるとシルクメイトシリーズには飼料安全法の基準に準じたと思われる飼料添加物として防腐剤及び抗生物質が添加されていることがわかります。


    カイコ(Bombyx mori)はクワコ (Bombyx mandarina) から完全に家畜化された昆虫で品種も多岐にわたるため細菌感染に弱い品種も存在すると思われますので産業面から捉えれば安心して使用できる飼料と言えますが餌料生物の餌として捉えればこれらの飼料添加物は気に掛かる存在と捉える方も少なくないのではないでしょうか。
    この場合次の対応が考えられます。

    1.そのまま使い続ける 自己責任に於いて枯草菌を添加しても良いかもしれません。

    2.自分で人工飼料を作る

    参考までに当店で作るレシピを紹介しておきます。 応急的にしか作りませんので少量となっています。 量や加熱時間は適宜調整してください。 桑の葉(桑の葉茶)のみで作る時は水量が多くなります。 材料は無農薬などのヒューマングレードになりますが小動物にとってヒューマングレードが良いとも限りません。 ただし、現実的にヒューマングレード以上のものは入手が困難になります。

    【3分でできるシルクワームフード】

    材料(大葉一枚相当分)

    桑の葉100%パウダー 5g

    きな粉        4g

    コーンフラワー    1g

    水         25ml

    必要に応じて餌料酵母やビタミン、枯草菌を追加してください。

    作り方
    ①桑の葉、きな粉、コーンフラワーをよく混ぜ水を加えて良く練る。

    ②電子レンジで約1分加熱して完成しますので冷ましてご使用ください。

    3.ブランチングした冷凍桑の葉をストックしておく(おすすめ)

    ※ブランチングとは、野菜や果物などを短時間加熱し冷凍保存によって活性化する酸化酵素を不活性化する調理法です。

    方法

    1.桑の葉を100℃の熱湯で30秒湯通したのち素早く引き上げ冷水で冷まします。

    2.葉を一枚ずつタオルなどに並べ乾燥させる。

    3.ある程度乾いたらチャック付ポリ袋へ適量毎に分けて冷凍保存する。

    参考

    TOSHIO OHNISHI, Freezer storage method for mulberry leaves pretreated with boiling water, The Journal of Sericultural Science of Japan, 1986, Volume 55, Issue 2, Pages 137-142, Released on J-STAGE July 01, 2010, Online ISSN 1884-796X, Print ISSN 0037-2455, https://doi.org/10.11416/kontyushigen1930.55.137…, https://jstage.jst.go.jp/article/kontyushigen1930/55/2/55_2_137/_article/-char/en…,

    最後にカイコ(蚕)と養蚕の歴史に触れておきます。
    養蚕の発祥地は中国で日本には弥生時代に伝わったと言われています。
    世界最古の絹は山西省夏県西陰村の仰韶文化遺跡で発見された5,000年から6,000年前の蚕繭で、鋭利な刃物で17%人工的に切断されていることから食料か占いの道具ではないかと推定されています。
    養蚕は先ず食料調達として始められ、後に絹糸の利用が始まったと言われています。 古代シルクロード南部の重要な結節点であり養蚕で栄える四川省凉山州にプーランミ(カタカナチベット語は的確でない可能性あり)と名乗るチベット族部落があり、これはチベット語で「蚕を好んで食べる人」という意味だそうです。


    糸を吐き続け完成させた繭から妖精の姿に生まれ変わり天へ飛び立つ完全変態の様は、古代人にとって単なる家畜ではなく神格化された存在であったことは天 + 虫から表された「蚕」の字から容易に想像でき、蚕を食べることで神の力が体内に宿ると信じていたのかもしれません。
    また幼虫組織の細胞死と成虫組織の再構築を守る美しい繭の存在は死の棺であると同時に再生のゆりかごを意味し、絹に一層深い想いを託すことができたのではないでしょうか。
    そして長期に亘り絹を身につける特権は皇帝や貴族だけのものでした。
    (蠶の漢字の成り立ちは大量に紡いだシルクのお団子頭という意味)

    この半繭は1928年にワシントンのスミソニアン博物館に持ち込まれBombyx moriの祖先と証明されました。
    これについては後世で混入したのではないかという意見もありますが、約6,000年前の仰韶文化初期の師村遺跡からは石刻の蚕繭が発見され、浙江省湖州市呉興区の銭山漾遺跡をはじめいくつかの遺跡から養蚕や絹織技術の形跡が発見されています。
    これは北宋の劉恕が書いた「通鑑外記」のなかで黄帝の正妃である嫘祖が人々に養蚕を教えたとされる伝説と時期や場所(黄帝は山西省南西部で蚩尤と「潞塩」を巡る争いをした)が一致しています。
    また2019年、河南省滎陽市の仰韶時代の汪溝遺跡からELISA(酵素結合免疫吸着測定法)により発見された絹織物の残骸が約5,500年前のものであるとされたことから専門家の間では絹織物の起源は約5,500年前であると考えられています。

  • ピンクバッタ

    X投稿より

    ピンクバッタの個体群です。
    遺伝子変異により黒いユーメラニンが欠如し、赤いフェオメラニンが増えるエリスリズム(赤髪症)と呼ばれています。
    バッタは相変異を起こすLocust(Grasshopperに対して大量発生し農作物を食い荒らすバッタの通称です)に代表されるように環境条件に応じて形質を変化させる能力(表現型の可塑性)が優れていますので個体群密度や周囲環境の色や温度、リスクヘッジとして基本色以外の体色に変色することがあると言われています。
    ここで言うリスクヘッジとは、例えばバッタを食べる捕食者が緑色のバッタを美味しいと認識したならば長期的に緑色のバッタは捕食者に食い尽くされてしまうかもしれません。
    通常自然界で目立つ体色は発見され易く不利であると言われますが生存戦略の一環として基本色と異なる体色に変化するとことで生き残ることができるのではないかという「賭け」にでることがあるようです。
    体色に関わる表現型の可塑性については脱皮により変色することがありますが我が家の個体群はピンクで固定していますので親から引き継いだ遺伝子変異であると言えます。
    人の一生でピンク色のバッタに遭遇する確率は1%と言われています。
    累代でピンクの個体を残せると良いと思います。

  • 飼料のお話し

    X投稿より

    家畜や養殖魚用の「飼料」をペットやペットの餌となる小動物の餌に用いる例は多く見られます。
    食卓に上るまでの育成を前提とする家畜や養殖魚(家畜等)と終生飼育または繁殖を目的とするペットとは飼育目的が異なる点を忘れてはいけません。 飼料添加物の残留基準については食品衛生法に基づくため人間が家畜等を摂取しても健康を損なわない量として設定されており小動物が対象でないことに留意して使用する責任があります。
    飼料については飼料安全法(飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律)に定めがあり成分規格や使用できる飼料添加物が決まっています。
    飼料添加物とは飼料安全法施行規則で、 ①飼料の品質の低下の防止 ②飼料の栄養成分その他の有効成分の補給 ③飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進 と用途が定められており、②のアミノ酸やビタミン、ミネラルが広く知られていますが、①の抗酸化剤や防かび剤、③の合成抗菌剤や抗生物質(抗菌性飼料添加物)なども含まれています。
    厳格な基準が存在することから多くの飼料に飼料添加物が含まれているのではないでしょうか。
    また飼料安全法の対象とならない餌類でも準じた製法で作られているものが存在します。
    表示に関しては飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令の別表第1に定めがあり飼料添加物の名称及び量が記載されることになっていますので内容を確認しておくことが重要です。
    残留基準についてはポジティブリスト制度に基づき残留基準が個別に設けられたものや一律基準値(0.01ppm)以下と定められたものがありますが、あくまで人間のADI(一日摂取許容量)が基準となっています。
    尚、アミノ酸やビタミン、ミネラルはポジティブリスト制度の対象外となっています。
    これらの飼料添加物を使った飼料や餌類をペットに与える場合、常在菌が弱ったり死滅することで生体バランスが崩れる可能性や、長期投与による耐性菌の増加など一定のリスク管理が必要になると考えられます。
    特に免疫に関わる乳酸菌は薬剤に弱いことから積極的な補充が望ましいとも考えられますが乳酸菌の連続投与は腸壁を薄くするなどマイナス効果の指摘もあります。
    小動物は人間ほど腸内細菌叢との共生関係が複雑ではなく、そもそも定着が困難である可能性があります。
    生体にとって益菌とされるものには一定の薬剤耐性を持つものがあり併用して使用することが望ましいと考えられます。
    一般的には酪酸菌や枯草菌が環境に対する耐性が優れていいることから乳酸菌と併用して使用され、人間用の生菌製剤にも3タイプの益菌を有効活用した商品が存在します。
    またこれらの益菌は腸内で酸素濃度の比較的高い前腸(人間の場合は小腸)に枯草菌、中程度の中腸(人間の場合は小腸~大腸)に乳酸菌、酸素濃度の低い後腸(人間の場合は大腸)に酪酸菌と住み分けをし、それぞれの増殖を助ける役目も果たしています。

  • アカハライモリの学名の由来

    X投稿より

    Cynops pyrrhogaster は言わずと知れたアカハライモリの学名です。
    Pyrrhogasterは、ギリシャ語のpurrhos(赤い、火)とgastēr(腹 )に由来しておりアカハライモリの特徴を捉えています。
    Cynopsについてはギリシャ語 cyon (犬) とops(目、顔、表情)から「犬の顔」を由来とする解釈がありますが私はこの説は支持しておらず、『水棲イモリ』と解釈しています。
    アカハライモリは1826年に日本から持ち込まれた『標本』に基づきドイツの動物学者Heinrich BoieがMolge pyrrhogasterと分類したのが始まりです。
    比較対象となった現在の『陸棲イモリ(繁殖期は水棲)』であるスベイモリ(Lissotriton vulgaris)の同属別種に該当します。
    その後1838年にスイスの博物学者Johann Jakob von TschudiによりCynops属に分類されました。
    ここからは全くの私見となりますがCynops属の由来について考察してみます。
    古代ローマの著述家、博物学者、ローマ帝国の海・陸軍司令官などの肩書を持つGaius Plinius Secundus(通称大プリニウス)が著したNaturalis Historia(博物誌)に答えが隠れていると考えています。
    現在ではハーバード大学出版局が翻訳した電子文書を読むことができます。
    全37巻からなる博物誌の第8巻から第11巻の『動物学』の中で『魚類』について書かれたパートがありますが魚類以外の水棲動物の記述も多いことから一般的には『海洋動物(marine animals)』として扱われています。
    その中にCynopsの記述がありますが対応する生物種がunknown(不明)となっています。
    このことは後世に於いて未知の水棲動物の名付けを行うえでCynopsが有力な候補となった可能性があったと考えられます。
    前述のとおり標本のアカハライモリは『陸棲イモリ』であるスベイモリと同属に分類された経緯がありますが生きたアカハライモリは『水棲傾向が強い種』と観察することができます。
    このことから新属の設立の際に水棲生動物を表すCynopsが使われたのではないかと推測します。
    尚、大プリニウスは西暦79年に起きたベスビオ火山の大噴火の際に友人とその家族を助けようとして生涯を閉じたと言われています。
    大プリニウスの意味したCynopsが何であったのか知ることはできませんが、アカハライモリの学名が『赤い腹の水棲イモリ』ならしっくり来ませんか?

  • オタマジャクシのしっぽ

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    オタマジャクシのしっぽは吸収され絶食期のエネルギー源となると言われますが成体器官の出現と幼生器官の消失といった有尾から無尾への変態のクライマックスシーンが急速に展開されますので観察すると興味深いです。
    アポトーシス(プログラムされた細胞の死)のプロセスにより尾の消失が始まりますが死んだアポトーシス細胞は主にマクロファージの貪食作用により処理されます。
    マクロファージは免疫細胞として細菌やウィルスなどの異物を食べるだけでなく抗原提示細胞として他の細胞に異物の情報を伝達する役目もありますので尾の吸収が始まりやがて終了したという情報も伝達されて変態に大きく影響するのではないでしょうか。
    一般的に前肢が確認出来ると上陸を意識しますが私は上陸を「待つ」のではなく水深を浅くしたり容器を傾けたりして「促す」ようにしています。
    変態のクライマックスに於いては尾や口といった外見の変化だけでなく肺や腸など臓器の変化もドラスティックに起こります。
    また、皮膚の色素胞の構造変化もこの時期起こりますので一般的なアマガエルなどは体色が緑色に変化します。
    水中から早めに出すことで一気に変態が完了するのではないかと考えています。
    オタマジャクシの頃と異なり餌を食べ出すと生き餌の調達が大変になりますが食べてくれると安心します。
    ちなみにオタマジャクシはコプロファジーと言って糞食性なので綺麗に掃除しないことがポイントです。
    動画は上陸させて2時間程度の変化をまとめています。
    僅かな時間でカエルらしさが出て来たと思いませんか?