Cynops pyrrhogaster は言わずと知れたアカハライモリの学名です。
Pyrrhogasterは、ギリシャ語のpurrhos(赤い、火)とgastēr(腹 )に由来しておりアカハライモリの特徴を捉えています。
Cynopsについてはギリシャ語 cyon (犬) とops(目、顔、表情)から「犬の顔」を由来とする解釈がありますが私はこの説は支持しておらず、『水棲イモリ』と解釈しています。
アカハライモリは1826年に日本から持ち込まれた『標本』に基づきドイツの動物学者Heinrich BoieがMolge pyrrhogasterと分類したのが始まりです。
比較対象となった現在の『陸棲イモリ(繁殖期は水棲)』であるスベイモリ(Lissotriton vulgaris)の同属別種に該当します。
その後1838年にスイスの博物学者Johann Jakob von TschudiによりCynops属に分類されました。
ここからは全くの私見となりますがCynops属の由来について考察してみます。
古代ローマの著述家、博物学者、ローマ帝国の海・陸軍司令官などの肩書を持つGaius Plinius Secundus(通称大プリニウス)が著したNaturalis Historia(博物誌)に答えが隠れていると考えています。
現在ではハーバード大学出版局が翻訳した電子文書を読むことができます。
全37巻からなる博物誌の第8巻から第11巻の『動物学』の中で『魚類』について書かれたパートがありますが魚類以外の水棲動物の記述も多いことから一般的には『海洋動物(marine animals)』として扱われています。
その中にCynopsの記述がありますが対応する生物種がunknown(不明)となっています。
このことは後世に於いて未知の水棲動物の名付けを行うえでCynopsが有力な候補となった可能性があったと考えられます。
前述のとおり標本のアカハライモリは『陸棲イモリ』であるスベイモリと同属に分類された経緯がありますが生きたアカハライモリは『水棲傾向が強い種』と観察することができます。
このことから新属の設立の際に水棲生動物を表すCynopsが使われたのではないかと推測します。
尚、大プリニウスは西暦79年に起きたベスビオ火山の大噴火の際に友人とその家族を助けようとして生涯を閉じたと言われています。
大プリニウスの意味したCynopsが何であったのか知ることはできませんが、アカハライモリの学名が『赤い腹の水棲イモリ』ならしっくり来ませんか?
著者について