人工飼料に含まれる窒素(タンパク質 × 16%)のうち魚が吸収・利用できる割合は投入飼料のわずか20%に過ぎません。
ヨーロッパの研究で養殖サーモンの飼料に含まれる窒素の20%が直接水中に溶解し、残り80%が魚に摂取され、摂取された窒素の65%が内因性排泄、10%が糞便排泄され、僅か25%だけが魚の成長に使用されることがわかっています。(戴子坚;蔡春芳,2002)
つまり投入飼料 × 80% × 25% = 20%が魚の成長に利用され残りの80%は水域を汚染することになります。
多くの魚類の内因性窒素は鰓から、一部は腎臓から主に有毒なアンモニアとして排泄されます。
満々と水をたたえる大自然に鰓板のイオノサイトを介して有毒なアンモニアを効率的に排泄できる多くの魚類にとっては無毒な尿素に変える代謝経路は単にエネルギーロスを招く存在になるということかもしれません。
あくまで自然界での話です。
約20年前の研究なので飼料組成や養殖環境の改善により吸収率の向上が考えられる一方で、もてはやされる飼料については高タンパク質化が進んでいるのではないでしょうか。
吸収できる窒素には限界があり、過度な窒素は過度な有害なアンモニアとして魚類の体内を巡り水域へ排泄されるということ、非タンパク質(糖質、脂質)エネルギーが不足した状態だとタンパク質をエネルギーとして消費しアンモニアを生産するという無駄を招くということを覚えておくと良いと思います。
農業の視点から捉えます。
低窒素の有機肥料(高いC/N比)を土壌に施した際に土壌中の窒素が微生物に取り込まれ窒素不足による作物の生育不良が起こる状態を「窒素飢餓」と呼びます。
逆に高窒素(低いC/N比)の場合は残った窒素は土壌に排泄され栄養素として作物の生育に使われる利点があるためこの状態を問題視する言葉は存在しません。
あくまで農業での話です。
2つの話には関係が無いように思えますが魚の体内では腸内細菌群によりアミノ酸が分解されアンモニアが排泄されます。
魚類のC/N比は脂肪含有量により影響を受けるため多様性が高いですが一般的に魚肥料のC/N比は細菌のC/N比より低いことから細菌の窒素要求量は魚類より少なく炭素要求量が多いと考えられます。
それはつまり高タンパク質の魚用の飼料を栄養素とした腸内細菌が多くのアンモニアを排泄し宿主の腸に有毒なアンモニアが多く吸収されるということを意味します。
もっともアンモニア分解細菌の可能性や菌体タンパク質として利用される可能性もありますが尿素転換という解毒回路に依存しない魚類にとっては健康管理のうえで注意すべき点と言えます。
近年の研究からC/N比が10未満の場合、従属栄養細菌は有機窒素を優先的に利用するためアンモニア排泄が増加すると言われています。
具体的に飼料タンパク質含有量が30%を超えるあたりからC/N比は10未満になります。
また魚類には胃を持たない無胃魚が多く、胃を持つ魚に比べて消化・吸収に関し腸内細菌とより強い共生関係を持つと考えられます。
そして胃で殺菌されずに様々な微生物が直接腸内に運ばれてくるため日常の微生物叢のコントロールが健康管理の鍵になると言えるのではないでしょうか。
バイオフロック、中でも特に細菌フロックの視点から捉えます。
農業で理想とされるC/N比は20~30とされていますが、水産で理想とされるC/N比は15と低めになります。
これは土壌に於いては炭素源に事欠くことがありませんが、水中に於いては従属栄養細菌にとっての有機炭素源が不足しがちであるために細菌叢の構成が異なるためだと考えます。
事実バチルスや乳酸菌は中国の水産現場で活用される益菌の代表格ですがC/N比15を好むと言われています。
一般的に水槽内に於ける炭素窒素の供給源は飼料であるため水槽内のC/N比はかなり低く従属栄養細菌が活用できている例は非常に少ないと言えます。
このような環境は、底生珪藻、藍藻、緑藻、藻類、硝化菌中心のバイオフロック( + 水草)が形成されることになると思います。
特に底生珪藻(茶ゴケ)は初期に発生することからアンモニアを好むと考えられます。
ここで化学合成独立栄養細菌としての硝化菌についての問題です。
水槽立ち上げの硝化系統形成時にアンモニアが豊富に存在すると亜硝酸塩濃度は降下するでしょうか、上昇するでしょうか?
実際測ったことはありませんが理屈で考えると「急上昇」しなければなりません。
立ち上がるまで魚はパイロットフィッシュとして少しだけと知っている方は多いと思いますが、理屈を説明できる人は意外と少ないような気がします。
立ち上げなので還元菌や堆積物は関係ありませんので是非考えてみてください。
もともと水道に含まれていた、ということはありますが上昇する理由にはなりませんので正解ではありません。
私の答えは改めてポストするようにします。
ちなみにビブリオは日和見菌として位置づけられますが現実的には悪玉菌として捉えられることが多く特筆すべき点はC/N比10の環境を好むと言われていますので海水魚飼育の方は注意が必要です。
魚の餌と微生物との関係が強いということがわかっていただけたと思いますが与える飼料から不足する炭素量を計算することが可能です。
バイオフロックだけでなくプロバイオティクスとしても有効ですのでバクテリアマスターを目指す方は是非覚えてください。
台湾農業部水産試験所の資料によるとタンパク質含有量の違いによるC/N比は以下のようになります。(一部抜粋)
20%→15.6
30%→10.4
40%→7.8
50%→6.3
60%→5.2
粗タンパク質50%(C/N比6.3)の餌を100g使いC/N比を15に調整する場合は、(15 – 6.3)× 8g = 69.6gの炭素源不足が計算できます。
また、粗タンパク質40%(C/N比7.8)の餌を100g使いC/N比を15に調整する場合は、(15 – 7.8)× 6.4g = 46.08gの炭素源不足が計算できます。
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