釣り餌から流用される生き餌、産業として輸入される主に飼料用昆虫の話しです。
生き餌の条件としては栄養価値はさることながら持続的に生産または収穫可能であることが重要です。
近年は餌の養殖業者や特に個人レベルの各種ブリーダー等の尽力があり多くの生き餌の調達に事欠かなくなっています。
国内自給が完璧であれば申し分ありませんが一部の生き餌については輸入に頼ることになります。
安価な釣り餌から流用される生き餌が多く、例えば嗜好性は非常に高いものの高脂質であるために腸管の蠕動運動を亢進させ水分吸収不足による下痢の原因となることがあるために常時与えてはいけないハニーワーム(Galleria mellonella,Achroia grisella)は繭無し加工という利便性を看板に、幼虫として日持ちがすることも利点となりブドウ虫の代替として取り扱われてきました。
最近は加工方法に安全性を疑う声が多く加工無しのハニーワームが数多くのブリーダーにより養殖され流通しています。
一般的に幼若ホルモンによる繭無し加工が指摘されていますがこれは昆虫の変態が幼若ホルモンと脱皮ホルモン(エクダイソン)のバランスで制御されており幼若ホルモンを投与することで幼虫の状態を維持させることが出来るのだと考えることができます。
しかしコストや手間、ホルモンの作用持続時間について疑義があり他に効率的な処理方法があるのではないでしょうか。
低単価かつ無数の幼虫一匹一匹に注射を実施するとは考えられません。
魚については販売単価を上げる色揚げを目的として男性ホルモンが投与されることがあり強制的にオスに性転換させられた色鮮やかな魚が流通することもあるようですが効果は長期に及ばず騙されて買ったエンドユーザーのもとで復元することになります。
先述のとおり生き餌は持続的に量産可能であることが条件の一つになりますが、繁殖力と生命力の強さを持ち合わせる生物ということであり、人間や在来動植物にとって深刻な悪影響を及ぼす生物であると言い換えることが出来ます。
この点から植物防疫や外来生物の視点で捉えることが重要ではないかと思います。(法規制外で考える必要があるため「法」は敢えて消しています)
釣り餌はあらかじめ自然下で使用されることが約束されているので成長や繁殖が一切不可能な状態であることが要求されるはずです。
あくまで産業昆虫であり害虫としての状態で輸入されることがあれば産業として継続できなくなり国益に関わる事態となります。
害虫や細菌は野菜などの農産物や食品または材木に紛れて意図せず輸出されることがあり防除の目的で放射線照射処理を施す国が多く存在します。
日本食品照射研究協議会によると、「放射線は穀物や果実の殺虫手段として有効であり、約0.5kGy 照射すると害虫を不妊化や不活性化(卵のふ化の阻止、蛹の羽化の阻止など)することができる」と記載があります。
(引用:日本食品照射研究協議会,食品照射とは)
放射線被ばくにより不可逆的にDNA切断を引き起こすことで永久的に蛹化を防ぐことが出来るのではないでしょうか。
生き餌として忘れてはならない存在としてアカムシが挙げられます。
中国から釣り餌として輸入している中から多くが生き餌として流通しているのではないかと想像できます。
釣り餌として売られるアカムシの商品説明には年に2回脱皮すると記載があり一化性(1年に1回だけ発生すること)以上の長いライフサイクルが証明されていますが、蚊やハエを含む害虫の代名詞のような双翅目に属するユスリカのライフサイクルがこのように長いものかと疑問に感じることがありました。
信州大学の「諏訪湖地域におけるユスリカ成虫飛来に関する実態調査研究」によるとアカムシユスリカは1化性であると記載がありますがユスリカとしては種類が非常に多く、中国のアカムシ養殖の説明によると地域により差があるものの5月頃と9月頃に繁殖のピークが2回訪れ、卵は約2〜3日で孵化し、幼虫は蛹になるまで約4週間、その後約2日で羽化すると言われていますので約1か月のライフサイクルで多化性(1年に3回以上発生すること)である可能性が示唆されます。
それに対して生き餌として買ったアカムシが羽化してユスリカになったと言う話は聞いたことがなく、輸出の段階で蛹化防止の処理が施されているのではないかと考えます。
釣り餌の分野は実態把握が困難であると指摘されることが多く釣り餌を生き餌として使用する際には熟慮の上で使用しなければなりません。
日本はでは食品衛生法に基づき馬鈴薯の発芽防止を目的とした放射線照射のみが認められていますが、海外では多くの人間用の食品への放射線照射が行われています。
実験動物用の飼料への放射線照射を皮切りに安全性が確認されてきたものの飼料用昆虫は食品衛生法の対象にあらず、ブリーダーであれば照射飼料の摂取による二次的不妊の可能性も懸念する必要があるかと思います。
尚、鮮やかな色彩と柑橘系のフルーティな香りを放つことで魚や爬虫類などにとって嗜好性の高いバターワームとして知られるチリガ( Chilecomadia moorei )はチリの法律で輸出の際に蛹化を防ぐために放射線照射が行われることで知られています。
著者について