「甘い香り」や「酸っぱい臭い」と表現するように臭いから味を連想することが可能です。
鼻と口が喉につながる人類は臭いと味を同時に楽しむことができます。
鰓呼吸による魚類の鼻は臭いを感じるための独立した器官であり、また近視とされているため魚類の臭覚は発達していると言われています。
他の感覚もありますが臭覚と味覚であれば直接生命維持に関わる味覚が先に発達したのではないかと考えます。
水中で生活する魚の体内における酸塩基平衡(酸性物質とアルカリ性物質のバランス)は環境変化に影響を受けやすいため水域の酸性化(酸味)をいち早く感知する必要があります。
特に溶存二酸化炭素濃度の上昇はph下降と高炭酸ガス血症の原因となりますので魚の味蕾は口内だけでなく体表の様々な部分に存在しており水中で常に味を感じていると言えます。
また餌が乏しく腐敗したものを食べなければならない環境でも腐敗菌が乳酸菌であれば発酵食となり多くのメリットを享受することが可能になるため酸への知覚は急務であったと考えます。
更に餌が乏しくなる深海では深海へ落ちて来る生物の死体などの腐敗臭をいち早く感知する臭覚が必要になります。
マリアナ海溝の水深8,100m付近で確認されたマリアナスネイルフィッシュ(学名:Pseudoliparis swirei)とそれぞれ共通の祖先をもつ比較的浅瀬に生息するクサウオ(学名: Liparis tanakae)との嗅覚受容体(OR )と微量アミン受容体( TAAR )の比較研究によるとマリアナスネイルフィッシュはTAAR遺伝子依存の臭覚を持っていることがわかりました。
これにより生物の腐敗後に放出されるアミンをいち早く感知することが可能となります。
またTAAR遺伝子は暗い深海で異性フェロモンを感知する役目も果たしている可能性もあるかもしれません。
ところで昨年末に甘い香り、またはイチゴの香りのする集魚剤としてのマルトールやエチルマルトールについてポストしましたが実は多くのアクアリスト達が魚や両生類の餌として活用している冷凍餌に引っ掛けて表現したものでした。
養殖魚用飼料でない観賞魚用飼料に関しては法規制等がないため原材料や添加物の確認が出来ないため品種は書きませんので皆さんの優れた臭覚で確認していただくことになりますが、生き餌として与えたときに冷凍状態ほど食いつきが良くないため不思議に感じた方もおられるのではないかと思いますがそれは集魚剤の効果による違いと考えます。
中国で釣りに使われるマルトールやエチルマルトールには工業用のものが使われることがあり漁師や釣り人の手荒れなどの悪影響が出ることがあります。
さすがに観賞魚用冷凍餌に使われる香料としては食品添加物が使われると思いますが添加物の与えすぎは良くありません。
また冷凍餌しか食べなくなれば一種の中毒症状と言えます。
そして一番注意すべき点は、食いつきの良さと利便性から飼い主が中毒になることで一辺倒な給餌は避けるようにしましょう。
魚の餌だけでなく動物の飼料全般にも使われるマルトール、エチルマルトールですが、生物は甘い香りを好むというということになります。
甘い香りやイチゴの香りから連想するものは、熟して木から水面に落ちてくる果実に含まれるビタミンやミネラルとも考えられますが糖と考えるのが妥当ではないでしょうか。
糖と言えばエネルギー源として捉えますが近年、ゲノム、タンパク質に次ぐ「第三の生命鎖」としての糖鎖が注目されていることはご存知でしょうか。
糖鎖は単糖が鎖状につながった化合物ですべての生物の細胞の表面にアンテナのように生えており細胞間情報伝達や免疫機能に大きく関わっています。
タツノオトシゴ固有のFlameCone細胞の粘液キャップを構成するムコ多糖類も糖鎖と言え腸管関連リンパ組織(GALT)が退化したタツノオトシゴの免疫系に大きく関わっていると考えます。
エネルギー源以外に糖鎖を構成する成分になる糖はすべての生物が求める存在と言えます。
著者について