センスを磨く問題ですので考えてみてください。
クロレラのみでミジンコ培養は可能でしょうか?
条件を設定しビタミンB群は供給されることとし、ミジンコはポピュラーなタマミジンコ(M.macrocopa)としておきましょう。
上記の条件では累代培養は可能かもしれませんが現実的には無菌培養は困難であり発生する細菌、菌類、微細藻類など微生物の栄養的干渉は避けることができません。
サスペンションフィーダーやフィルターフィーダーと呼ばれるワムシ、ミジンコ、アルテミアなどの濾過摂食者は継続的、非選択的に一定範囲の大きさの粒子を摂取します。
現在ミジンコ培養は濃縮クロレラを使う方法が定着しています。
濃縮クロレラの優位性はクロレラ細胞の密度の高さにあり、餌料生物の集約的な培養を担保することができます。
しかし使用期限は決して長くなく、保存方法にもよりますが時間の経過とともに枯れる細胞が増加していきます。
流出した細胞質内の水溶性成分は濾過摂食者による取り込みができず、主に細菌の栄養基質として利用されることになります。
このようにして増えた細菌等は濾過摂食者に取り込まれ消化・同化されることになります。
餌料生物の栄養価は与える餌により有為転変しますので、この場合の栄養価は発生する細菌等によって運否天賦という事になります。
濃縮クロレラの効果を最大限に得るためには、サードパーティー経由によらず製造年月日の表示されたメーカー直送品を選択することが大事です。
このように細菌等の発生は必至であるため特定の細菌・菌類を培養し餌として使用する方法があります。
中国の漁家の間でワムシの培養方法として導入されていますが、ミジンコ培養方法で用いられる「安定茶方式」、「独立栄養方式」を併せた培養技術と言えます。
「安定茶方式」、「独立栄養方式」のいずれも水産養殖業界では藻類バイオマスを獲得する目的で紹介されますが、実は「安定茶方式」の解釈は正しくありません。
洞窟動物相の研究で知られるアメリカの動物学者Arthur Mangun Bantaが1921年に「便利なミジンコ培地」として紹介した培地が普及したものですがバンタはこの培地の主要な食物要素は細菌であり適切な細菌を培養し、一定量を一定間隔で接種することで大量培養に適した「スタンダードフード」を得ることが可能であると述べています。
バンタは5年間の研究成果を車上荒らしで盗まれ志半ばで世を去った不遇の研究者と言えますがバンタの偉業が達成していたら餌料生物培養に与えた影響は違ったものになったかもしれません。
安定茶方式:池水、庭土、馬糞(通常は家禽糞、牛糞)から構成される培地で効果が比較的長期に及ぶ。
独立栄養方式:1~2種の微細藻類を培養し餌として用いる。累代培養の場合はビタミン添加またはビタミン生産菌が必須となる。
著者について